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第1―4話
結局、その夜、高野と小野寺は二人でイタメシを食べに行った。
お洒落だがそう高級レストランという訳でもない店は、若いサラリーマンやカップルで満席だ。
小野寺は自分達も、カップルの一組に入るのかと思うと赤面した。
だが次の瞬間、自分の思考にツッコミを入れる。
男同士で何意識してんだ俺は!!
カップルに見えるワケ無いだろ!!
そもそも恋人同士じゃないんだし!!
上司と部下の納会!!
ただそれだけだ!!
…ウザイ…!自分がウザイーーー!!
「…って、おい小野寺聞いてんのか?」
高野の呼び掛けにハッと我に返る。
「す、すみません…。何でしたっけ…?」
高野がハーッと深いため息をつく。
「どうせまたくだらねーことグルグル考えてたんだろ。
進歩ねーな。
料理も殆ど手付けてねーじゃねーか。
ちゃんと食え。
そして話を聞け」
「…は、はい…」
小野寺がナイフとフォークを手にして、料理を口に運び出すと、高野が話を続ける。
「正月休みの予定だけどな、たぶん明日は一日死んでるだろう。
夕食は俺が作ってやるから、安心して死んでろ。
で、翌日はお前の部屋の大掃除だな。
これもお前だけじゃ無理だから、俺も手伝う。
夕食は大掃除の進み具合で決めよう」
「あ、あの…」
小野寺が横を向いて呟く。
「それじゃあ、俺、高野さんに甘え過ぎっていうか…」
高野がフッと笑う。
「仕方ねーだろ。
好きなやつが生活能力皆無なんだから」
「生活能力皆無って!!
俺だってやれば出来ます!!」
「ふ~ん」
「な、何ですか」
「好きなやつってとこは納得してんだ?」
ぼぼぼっと小野寺が真っ赤になる。
高野はそんな小野寺を見て口元が綻ぶ。
「これで30日までにマンションの方は年越し準備できるだろ。
お前は31日から実家に帰るんだろ?」
「…はい」
「お前んち正月は餅つきすんだよな?
それって元旦?」
「あ、はい」
小野寺が真っ赤なまま顔を上げる。
高野のやさしい視線にぶつかって、小野寺の心臓が早鐘を打つ。
「小野寺…」
高野がテーブルに置かれた小野寺の手に、そっと自分の手を重ねる。
「高野さん?」
「二日の日、俺の為に時間作ってくれないか?」
「え?」
「俺、正月っつても実家に帰る訳でもねーし、お前と初詣に行ってみたいかなって…」
その時、小野寺は思い出した。
高野は離婚した両親のどちらとも上手くいっていないことを。
正月だからって帰る家も無いのだ。
「わ、分かりました!
うちは大晦日から元旦さえ家の行事に参加すれば、それ程うるさくないんです。
二日は高野さんと初詣に行きます」
「律…ありがとう…」
高野は重ねた手をぎゅっと握った。
一方、羽鳥は真っ直ぐ吉野のマンションに帰宅した。
「トリ、1年間お疲れ様~!」
羽鳥が玄関に入った途端、吉野がクラッカーを鳴らす。
「ありがとう」
羽鳥がポンポンと吉野の頭を軽く叩いて微笑む。
「でもさあホントによかったの?」
二人、リビングに向かいながら吉野が羽鳥を見上げる。
「何が?」
「仕事納めの日だってのに、メシ作ってくれるとか…。
どっか食べに行ってもいいよ?
あ、デリバリーでもいいし!」
「いいんだ。お前が俺の作ったメシを食ってる顔が見たい」
「…へ?」
「間抜け面でほっぺた一杯頬張って笑ってる顔」
「なんでそんな顔…?」
羽鳥は立ち止まると、屈んで吉野の顔を覗き込むとため息をつく。
「本当に分からないのか?」
「だ、だって間抜け面って…」
「癒されるってことだよ」
「癒される?」
羽鳥がまた深いため息をつく。
「鈍感。
好きなやつが俺の手料理を食べてる笑顔が見たい、それが俺の癒しで、1年間のお疲れ様だって言わなきゃ分からないのか?」
「え…え?え?えーーー!?」
吉野が真っ赤になってポカンと羽鳥を見る。
羽鳥はクスッと笑うと吉野の唇にキスをした。
「美味いー!!やっぱりトリの作ったごはんは最高~!」
吉野は羽鳥の言った通り、羽鳥の手料理をほっぺた一杯頬張って笑っている。
「そりゃ良かったな。
良く噛んで食えよ」
「うん!」
羽鳥も料理に手を伸ばしながら、ダイニングテーブルからリビングを見渡す。
「それにしても流石プロだな。
綺麗になってる。
キッチンも完璧だった」
「あ、ハウスクリーニング?」
吉野は今日、ハウスクリーニング業者に来てもらい大掃除をしてもらったのだ。
吉野のマンションは流石に高級マンションだけあって、部屋数は3LDKだが一部屋がやたらと広い。
いつもは12月の初めから羽鳥と吉野で少しずつ片付けるが、今年は羽鳥も吉野も仕事が立て込んで無理だった。
羽鳥は会社が正月休みに入ったら直ぐに大掃除をしてやると言ってくれたが、吉野が断った。
羽鳥には休養が絶対必要だからだ。
それに羽鳥のマンションの大掃除もある。
それで吉野はハウスクリーニングを頼んだのだった。
「凄い色んな器具を使っててさあ、見てて飽きなかった!
それで短時間でスッゲー綺麗になってくし!
ちょっとくらいお金がかかっても、来年も業者さんに来てもらおうかな」
「そうか…」
うきうきとハウスクリーニングの話をする吉野に、羽鳥はちょっぴり不満そうだ。
吉野が自分の身体を気遣ってくれているのは分かるが、羽鳥は吉野の家の大掃除がしたかったのだ。
だがそんな羽鳥に気付かない吉野は、ポンと話題を変える。
「正月、実家帰るの面倒くさいなー」
「何言ってるんだ。毎年のことだろう」
「そうだけどさー。
お袋と千夏はうるせーし、つまんねーし」
「大晦日と元旦くらい我慢しろ」
「えぇー……トリんち行っちゃダメ?」
「馬鹿。余計おばさんに怒られるぞ」
ぷーっと膨れる吉野に羽鳥がサラッと告げる。
「どうせ実家に行くのも帰るのも一緒なんだ。
元旦は終電ギリギリまで実家にいて帰って来ないか?
二日の日に二人で初詣に行こう」
「行く行く!」
途端に吉野が笑顔になる。
「そうだな…まだ行ったことの無い神社を探しておくから」
「マジ?スッゲ楽しみー!
なあなあ初詣だけ?
どっか遊びに行こうぜ!」
「分かってるよ。
そっちも予定立てておくから」
「やった!トリ大好き!」
吉野は無意識に『大好き』と言ったんだろう。
照れている様子は微塵も無い。
羽鳥はちょっと目を丸くすると、やさしく微笑み「俺も好きだよ、千秋」と呟いた。
そしてその夜木佐は、羽田空港でキラキラ王子様に抱きしめられていた。
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