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第1―11話

桐嶋も木佐と羽鳥と同じ。 一瞬で事情を悟った。 男なら考えることは同じということか… 桐嶋は一回頷くと、迷わず横澤に告げる。 「横澤、井坂さんはエメ編にもリサーチ頼んだみたいだぞ。 高野と羽鳥と木佐と小野寺がいる」 横澤が一瞬でぼぼっと赤くなる。 「えぇ!?ま、マジか!?」 桐嶋が余裕で微笑む。 「何だよ、赤くなっちゃって。 エメ編の連中がいたからってどうってことないだろう? 健康ランドのリサーチなんだから。 社員旅行だと思えばいいんだよ」 「そっそうだよなっ!」 横澤がわざとらしくあははと笑う。 「じゃあ行くか」 桐嶋はズカズカと大浴場に入って行き、腰のタオルを取ると、立ったままザバッとかけ湯をかけた。 その音に高野と小野寺、木佐と雪名の視線が桐嶋とその後ろにいる横澤に集まる。 羽鳥は桐嶋と横澤が話している間に移動したのか、桐嶋と横澤がいる場所から見える範囲からは姿を消していた。 桐嶋はモデル並の笑顔で四人を見渡す。 「よう。お前達も来てたのか」 「は、はい…」 「まあ…」 高野と木佐と小野寺が曖昧な返事をしていると、雪名がにっこり笑って大声で言う。 「ジャプンの桐嶋編集長じゃないですか! 明けましておめでとうございます。 ブックスまりもの雪名です」 「ああ、まりもの雪名くんね。 いつもサイン会や色々と手伝ってくれてありがとう」 「とんでもないです! 今年もよろしくお願いします」 「こちらこそ」 超イケメン同士の素っ裸の挨拶に、高野と木佐と小野寺は目が点になる。 横澤に至っては真っ赤だ。 雪名はペコリと頭を下げると気が済んだのか、振り返りまた籠の中身を楽しそうに物色している。 高野と木佐と小野寺もため息を吐いて湯から上がると、腰にタオルを巻いて桐嶋の元に向かう。 ブックスまりものアルバイトの雪名が新年の挨拶をしたのに、同じ丸川で後輩にあたる自分達が挨拶しない訳にはいかない。 「あれ? 木佐さん、何処行くんすか?」 「俺も桐嶋さんに挨拶してくっから…」 「了解です! じゃあ俺、木佐さんが喜びそうな物、選んでますから!」 雪名のキラキラ輝く笑顔が木佐を直撃するが、今は桐嶋への挨拶が優先だ。 木佐はノロノロとかけ湯の場所に向かって歩いた。 何なんだ、この状況は!? 横澤は顔を真っ赤にして、桐嶋の後ろに棒立ちになっていた。 素っ裸で前も隠さず堂々と立つ桐嶋と、腰にタオル一枚巻いただけの高野と木佐と小野寺が丁寧に新年の挨拶を交わしている。 当然、桐嶋の後ろにいる、やはり腰にタオル一枚巻いただけの横澤も、新年の挨拶に巻き込まれる。 か、帰りたい…… 横澤は暑いくらいの浴場で青ざめながら挨拶を口にする。 だが一方安心もしていた。 これだけエメ編の関係者が揃っているのだ。 桐嶋も流石にみんなの前でアレコレして来ないだろう。 そう頭を切り替えると、これだけの健康ランドでのんびりできるのかと、逆に楽しくなってくるのだった。 高野達は桐嶋と横澤に新年の挨拶を終えると、それぞれ散っていった。 高野は『やりたい放題』プランが崩れさり、ガックリ肩を落としている。 小野寺は今にも鼻歌でも歌いそうに上機嫌だ。 理由は横澤と同じ。 これだけ関係者が勢揃いしているなら、高野だってちょっかいを出して来ないだろう。 「高野さん、薬湯ですって! さっきまでぬるめの超音波風呂に入ってたから、身体も解れて順番としたら良いんじゃないですか!?」 小野寺は茶色い薬湯に片足を入れて、熱いー、滲みるー、などと楽しげに騒いでいる。 高野はフウっとため息をつくと、その籠に気付いた。 木佐と雪名のジェット風呂にもあった籠。 高野は薬湯と籠の中身を交互に見るとニヤリと笑った。 木佐が雪名の元に戻ると、雪名はジェットバスの縁に座っていた。 テンションダダ下がりの木佐に雪名は不思議そうだ。 「木佐さん?どうしたんすか?」 「……どーもこーも」 木佐が深いため息をつく。 「こんな関係者だらけのハッテ…健康ランドで楽しめるか!」 雪名が木佐の両手をそっと握る。 「木佐さんが桐嶋さん達と挨拶してる間に庭に出て来ました」 雪名がキラキラニコニコと笑う。 「そしたら打たせ湯は円形になってて、他人に見られないようにするのは簡単っすよ! それに露天風呂の草津の湯は元々白く濁ってます! それにあの籠は、全ての湯に完備されてます!」 木佐の顔がパーッと明るくなる。 「雪名!!」 「はい!」 「行くぞ!」 「はい!」 木佐と雪名は手を繋いで園庭に向かった。

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