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第1―15話

うるさいなっ!! 羽鳥の眉間に深い皺が寄る。 「……トリ?」 うっすらと開いた吉野の瞳から涙が零れ落ちて、羽鳥は慌てて吉野に微笑みかけると涙を唇で吸う。 「どうした? 驚いたか?」 吉野がフルフルと力無く首を横に振る。 竹で出来ている枕に乗せた頭も揺れて、吉野の瞳と同じ黒い髪が湯の中で小さな白い顔を縁取り、吉野を一層可憐に引き立て、達したばかりの羽鳥の下半身が疼く。 「トリの馬鹿…も、無理って…言ったのに…」 「ごめん、千秋」 羽鳥がやさしく吉野を抱き起こす。 吉野と羽鳥がいる場所は本物の竹で覆われた寝湯で、五人分のスペースに分かれている。 羽鳥は側に置いてあったペットボトルに片手を伸ばすと、器用に片手で蓋を開け、ミネラルウォーターを口に含み吉野に口付ける。 羽鳥の口内から吉野の口内へと冷たい水が移動する。 吉野は美味しそうにコクコクと水を飲み込んでいる。 羽鳥は二度、同じ行為を繰り返すと、吉野に囁く。 「どうする? 少しここで休むか?」 「…ちょっと暑いかも」 「じゃあ園庭に出てみるか」 吉野がコクっと頷いて、羽鳥は吉野の雄から超薄のゴムを外してやる。 ゴムの中身は水のような少量の液体が入っているだけだ。 羽鳥は思わず満足気に口元が綻んでしまう。 吉野と羽鳥は場所を変えながら、四度絶頂を迎えている。 たぶん吉野はもう一度セックスしたら、気を失ってしまうだろう。 羽鳥はゴムの口を縛り、洒落たデザインのゴミ箱に投げ捨てると考える。 吉野は羽鳥の思惑通り『空っぽ』になったと言っていい状態だし、羽鳥はまだ余裕があるが『全てを注いだ』と言ってもいいだろう。 だが、意識を失った吉野の世話をするのも、それはそれで楽しい。 しかし羽鳥が吉野を抱き上げて歩き出すと、木佐と雪名が素っ裸でダッシュして園庭から大浴場に入って来るのに出会ってしまう。 「羽鳥、今の叫び声聞いたか!?」 「何かあったんですかね!?」 木佐と雪名はオロオロと羽鳥にまとわりつく。 吉野は恥ずかしいのか羽鳥にぎゅっと抱きついて顔を隠している。 吉野のかわいい仕草にまた羽鳥の下半身が疼く。 羽鳥にしたらハッキリ言って、どうでもいい。 ここに木佐と雪名がいるということは、残りのカップルは高野と小野寺、桐嶋と横澤だ。 高野と桐嶋があんな叫び声を上げるようなドジを踏むとは思えないし、大方、高野か桐嶋が小野寺か横澤に無理強いして、嫌がられたというところだろう。 それにここはエメ編プラス雪名しかいない平和な超高級ハッテン場。 何が起こるというのだ。 「大したことじゃないだろう」 と羽鳥が言おうとしたその時、誰かの大爆笑する笑い声と「政宗、しっかりしろ!大丈夫か!?」という横澤の大声。 そして小野寺の 「高野さん、どうしたんですか!?」 と焦る声が響いた。 「薬湯の方っすよね!? 行ってみましょう、木佐さん!」 「ああ! 羽鳥も来てくれよ!」 雪名と木佐が言い残し、バタバタと薬湯の方に向かって去って行く。 羽鳥はハーッと深いため息を吐くと、園庭に出てベンチに吉野を寝かせ、腰にタオルをかけてやる。 園庭は程よい気温に設定されていて、ここならば少し横になっていても風邪を引く心配は無いだろう。 羽鳥はベンチに横たわる吉野の顔の高さまでしゃがむと、吉野の赤くなった頬をやさしく撫でながら言った。 「大浴場で何かあったみたいだ。 状況を確認してくるから、お前はここで少し休んでろ。 直ぐに戻ってくる。 水は頭の上に置いてあるからな」 頬を撫でる羽鳥の手を、吉野が弱々しく掴む。 吉野の大きなタレ目の黒い瞳が、天井から降り注ぐ太陽の光を受けてキラキラと光る。 黒曜石の瞳を瞬きしながら、吉野が小さく呟く。 「早く…戻って来いよ…」 羽鳥は次の瞬間、大浴場に向かって走り出していた。 羽鳥が床で滑って転ばないように、それでも出来る限り早足で辿り着いた薬湯の前では。 腹を抱えて涙を流し大爆笑をしている桐嶋と木佐。 気の毒そうに高野を見守る雪名。 心配そうに高野に声を掛けながら、なぜか薬湯と高野を交互に見ている小野寺。 そして床でのたうち回る高野と、それに寄り添う横澤がいた。

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