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第1―16話
「一体どうしたんだ…」
羽鳥が現れると小野寺がパッと羽鳥に寄って来た。
小野寺は真っ赤な顔に瞳を潤ませアワアワしている。
「羽鳥さん、このお風呂、魚か何かいるみたいなんです!
それに高野さんが襲われたらしくて…。
どうしましょう!?
救急車呼んでもらった方がいいですか!?」
「…魚?
この薬湯にか?」
試しに羽鳥が茶色く濁った薬湯に人指し指を入れてみる。
湯は熱めだ。
40度はあるだろう。
まずこんな環境で魚が生息できるだろうか?
すると木佐が目尻の涙を指先で擦りながら笑ってやって来た。
「り、律っちゃん、高野さんはそっとしておいてあげれば大丈夫だから。
それよりフロント行ってバスタオルを二枚借りてきてあげてよ」
「バスタオル…?」
「うん。それで大丈夫だから!」
小野寺は怪訝な顔をしていたが、木佐の余裕のある態度に納得したのか、大きく頷き「はい!」と返事をすると勢い良く大浴場を出て行く。
木佐が小野寺の後ろ姿を見ながら、プーッと吹き出しゲラゲラ笑い出す。
「木佐。笑ってばかりいないで状況を説明してくれ」
ため息混じりの羽鳥に、木佐は「ごめんごめん」と言って笑いを堪えながら話し出した。
「律っちゃんさ~この薬湯が超気に入っちゃったんだって。
でもこの薬湯、熱いじゃん?
だからぬるい超音波風呂と交互に入ってて。
で、まあぶっちゃけ高野さんは律っちゃんとの風呂エッチ狙ってたから、そうなると茶色くて外から見えない薬湯がベストじゃん?
んで、高野さんも欲出さなきゃいいのにさ~」
木佐はそこで一旦言葉を切ると、我慢し切れないようにぶはっと吹き出して、続けた。
「羽鳥も気付いてただろ?
色んなゴムとローションがそれぞれの風呂に置いてあるの。
それでさ…高野さん、大イボ付きを選んだんだよねー。
その前のイチャイチャは上手くいってたらしいけど、いざ挿入っつー段階になって、律っちゃんが異変に気付いて…。
イボイボした何かがお湯に潜んでる、お尻に当たってるってパニックになっちゃって。
しかも当然律っちゃんと高野さんの間にイボイボはいる訳だから、このままじゃイボイボに気づいて無い高野さんが襲われるって…律っちゃん立ち上がって、イボイボがいる辺りを思いっきり何度も何度も踏みつけたんだってさ!!」
羽鳥がサーッと真っ青になる。
「そんな…じゃあ高野さんは…」
「そっ。律っちゃんの攻撃をモロに受けて…。
薬湯からは横澤さんと雪名で引き摺り出したんだけどさ、あの状態」
股間を抑えてウンウン唸っている高野を、羽鳥が心底同情の目で見る。
「お気の毒に…」
「しっかもそれだけじゃないんだなー」
「まだあるのか!?」
木佐がちょいちょいと羽鳥に向かって手を振って呼ぶ。
羽鳥が木佐の顔の高さまで屈む。
木佐は羽鳥の耳元で小声で言った。
「どうやら玉も踏まれたらしいよ…」
羽鳥は蒼白になるとガバッと身体を起こした。
木佐は最後に
「高野さんはこの話は律っちゃんにだけは知られたく無いって言ってっから。
絶対律っちゃんに話すなよ!」
と付け加えた。
暫くして小野寺がバスタオル二枚を持って戻って来た。
後ろには従業員らしき青年が付き添っている。
「お客様!薬湯に未確認生物がいるというのは!?」
散々笑って、今は落ち着き払った桐嶋が、従業員を連れて大浴場を出て行く。
『未確認生物』の真相を話す為に。
横澤が小野寺からバスタオルを受け取り、一枚を枕のように巻き、高野の頭の下に差し込んでやる。
残りの一枚で高野の身体を被うと、高野が掠れた声で「サンキュ…」と言う。
横澤は何も言わず高野の髪をくしゃっと撫でると立ち上がり、高野の周りに集まっている全員を見渡して言った。
「政宗は安静にしてれば回復すると思うが、ここにみんながいても政宗の気が休まらないと思う。
みんなで庭の草津の湯にでも入らないか?」
羽鳥と木佐と雪名、戻って来た桐嶋が黙り込む。
なぜなら。
四人とも超高級ハッテン場セックス三昧のフィニッシュを、草津の湯で実行しようと目論んでいたからだ。
そんな中、小野寺だけは
「それ、良いですね!
高野さんに気を使わせなくていいし!
あ、高野さん、ミネラルウォーター買って来たんで、ここに置いておきます!
ゆっくりしてて下さい」
と高野の顔の近くにペットボトルを置く。
高野は俯いたまま、掠れた声でまた「サンキュ…」と言うだけだ。
「じゃあ草津の湯にいくか」
「そうですね!」
横澤と小野寺が先陣を切って歩き出す。
その後を、桐嶋と羽鳥と木佐と雪名がノロノロと続いた。
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