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第11話
「あのお寺、墓が多くてひとりじゃ純也のところにたどり着けないよ。だからまた一緒に行ってくれる?」
新幹線の発車のベルが鳴った。航平はその音に負けないように、
「行こう! 来年もふたりで兄ちゃんに会いに!」
大きな声を張り上げる航平の前で新幹線の扉が閉まった。扉の向こうの笹木が航平に笑いかけている。
「待っとるからっ! 俺、笹木さんが来るの、待っとるけんなっ!」
ホームを離れていく新幹線の中の笹木に聞こえたかは分からない。だけど、笹木は優しく笑って手を振ってくれた。
笹木の乗った新幹線が見えなくなるまで、航平はもらった名刺を握りしめてホームに立っていた。
――来年。
いつ来るとか、どこで待ち合わせるなんて話していない。でも名刺の裏の電話番号にかければ笹木はすぐに出てくれるだろう。
日にちは来年の今日、待ち合わせは笹木と会った平和公園の川沿いのベンチにしよう。
赤ワインとメンソールの煙草を買って、今度は赤や青や黄色で彩られた灯篭を掲げたら、風に揺れる朝顔を目指して純也が空から帰ってくるのをふたりで迎えるのだ。
そして、大きな声でこう言おう。
「兄ちゃん、おかえりっ」
来年の夏を待ち遠しく思いながら、航平は名刺をポケットの中に大事にしまった。
【朝顔のゆれる空のしたで(終)】
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