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第13話
「いえ、今日は……。そうだママ、これはお土産です」
笹木は隣のスツールに置いた紙袋をがさがさと探って、綺麗に包装された菓子の箱を取り出した。
「まあ、もみじ饅頭じゃないの。笹木さん、広島に行かれてたの?」
「ええ。……純也に会いに行ってきたんです」
笹木の言葉にラン子ママとカウンター向こうのバーテンダーが、あっと顔を見合わせる。そして、
「そう。……もう何年になるかしらね……」
「五年になりました」
そんなに、としみじみとラン子ママは呟いた。しばらく三人で黙ったまま、流れる音楽に身を任せていると「せっかくだから、みんなで食べましょうよ」とママがもみじ饅頭の包装紙を開きはじめた。
「あら、これは初めて見るわ。こし餡以外にも種類があるのね」
いつも帰りの新幹線ぎりぎりにホームの売店で思い出したように買っていたから、餡子ばかりの饅頭しか購入したことが無い。だが今回は、
「抹茶クリームとかチョコレートとか、いろんな種類があるって教えてもらったんです」
ラン子ママがさっそく紅葉を型どった饅頭の透明な包装を取って、ぱくりと半分ほどを口に入れる。
「これはチーズ味よ。お酒に合いそうだわ」
へぇ、とタクミも綺麗に並べられた饅頭を物色して一つを口にした。
「あ、なるほど。チョコもなかなか旨いですよ」
思いのほか二人に好評で笹木は少し嬉しくなる。いつも見送りをしてくれる彼が勧めてくれたのだ。明日、職場に持っていっても大丈夫みたいだ。
「まだ沢山あるわね。タクミ、他のお客様にもお出しして」
タクミが小さな紅葉を他の客にお裾分けするのを目にしていると、ビールのグラスの横に置いていたスマートフォンが軽やかな音を鳴らした。
――もう東京に着いた?
新しい吹き出しはつい四時間前に別れた彼からだ。短いやり取りを何度かしてスマートフォンをカウンターに置くと、
「あら、笹木さんの好 い人からかしら?」
ラン子ママが少しにやけた顔で聞いてきた。
「まさか。そんなのじゃないですよ」
グラスのビールをあおると胸ポケットを探る。そこから封を開けたばかりのメンソールの煙草を一本取り出して火を点けた。
「珍しいわね、笹木さんが煙草なんて。でも、とても懐かしい香りだわ」
少し遠い目をしたママの顔を霞む煙越しに眺めて、笹木は昼間に会った青年のことを思い出していた。
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