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第15話
笹木は二つの声が響いたほうに視線を向けた。木立が影を作る遊歩道を、こちらに向かって一組のカップルが歩いてくる。
「ちょ、もう手ぇ離して。暑いしマジうざい」
背の高い青年の嫌そうな態度に、ひどぉい、と隣の女の子が大きな声をあげる。
「やっぱり女なんじゃ。じゃけえ、うちに会わせてくれんのん?」
やけに馴れ馴れしく青年の腕を取る女の子に彼は、違うわ、とひとこと言い捨てると、
「お前、これからバイトじゃろ? 遅れるけえ早よ行けや」
「だっていつの間にか先輩、シフト変えとるんじゃもん。そうじゃのうても普段から会ってくれんのに余計に顔、見れんくなってしもうたし」
「……変えたんじゃのうてあそこは辞めたの。先週までじゃった」
えっ、と驚いて立ち止まった女の子を彼はそのまま置き去りにして、真っ直ぐに笹木の元に向かってくる。笹木はベンチから立つと、今見た光景にどんな顔をしようかと少し迷いながら微笑んだ。
青年と視線が合う。彼はいつものはにかんだ笑みで「笹木さん」と嬉しそうに大人びた声で名前を呼んでくれた。
「航平くん、一年ぶり。元気だった?」
航平くん、と笹木に名前を呼ばれた青年は、はい、と返事をしてどこか照れくさそうだ。視線を忙しなく動かして時々、笹木の顔をちらりと見る。これは毎年のことだ。あと三十分もすればいつもの航平になる。
でも今年は少し違った。航平の後ろからぱたぱたと足音がすると、先ほどの女の子が笹木と航平に近寄ってきた。彼女は航平の横に寄り添うように体を寄せると、笹木と航平の顔を交互にじろじろと見比べて、
「……あの、先輩? このおじさんがどうしても今日、会わにゃあいけん人なん?」
挨拶もなく、こちらを訝しげに見る女の子に笹木は笑顔を見せた。だが、そんな彼女の態度に航平はカチンときたようだ。
「ちょっと待っとって、笹木さん」
航平は少し乱暴に彼女を腕を引っ張ってその場から離れると、声が辛うじて拾えるかというほど離れた大きな木の下で、ふたりは何かを話始めた。
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