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第16話

「何でえ? 嫌じゃもん、うちも行くぅ」と女の子の鼻にかかった声が何度か聞こえたが、やがて彼女は拗ねた態度を隠すこともせずに航平の前から足早に去っていった。  航平はそんな彼女の後ろ姿には目もくれず、また笹木の元へとやって来る。 「ごめんなさい、笹木さん。あいつが失礼なことを言うてから」  うつ向き加減で恐縮する航平に笹木は、 「いいよ、あの子の疑問はもっともだ。航平くんのような若い子と僕みたいなおじさんが会っているだけでも不思議なんだよ。それよりも良いの? あの子は航平くんの彼女なんじゃないのかい?」  笹木の問いかけに航平は若干面白くなさそうな表情をした。そして笹木を真っ直ぐに見つめて「そんなんと違います」と清々しいほどに否定した。 「それでも彼女は航平くんに好意を寄せているみたいだったけれど」 「高校の体育祭の委員をしたときの後輩なんです。その頃からウザかったけれど今年になって大学も同じになって。おまけにバイト先まで一緒にしてから、ちょっと迷惑しとったんです。じゃけえ、はっきりと言っときました」  航平がどんな風に彼女に言ったのかは笹木には聞こえなかった。だが、あの彼女の様子だと「お前には興味がない」と一刀両断されたのだろう。 (こんなところは純也に似ているな)  笹木は今から会いに行く、かつての恋人の姿を航平の中に重ねた。そして、 「じゃあ、そろそろ純也のところに行こうか」 「笹木さん、実はいつも兄ちゃんに会いに行く前に寄っとったコンビニが閉店しとったんです。じゃけえ、いつもの品物は別のところで準備せんと」  自分が悪いわけではないのに航平はすまなそうに笹木に言った。そうなんだ、と返事をした笹木に、 「ワインと煙草はこれから本通りの店に行って買いましょう。盆灯篭は寺の前で売っとるけえ、それでええと思います」  行きましょう、と歩き始めた航平に少し遅れて、笹木も航平の背中を追うように足を前に出した。

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