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第17話

***  いつもよりも値段の張った赤ワインとメンソールの煙草を持って、寺町へ向かう路面電車の座席にふたり並んで座る。運転士しかいない一両だけのオモチャのような路面電車は、それでも冷房が効いていて少し寒いくらいだった。  笹木は黙ったまま横に座っている航平にちらりと視線を向ける。また背が伸びたのだろうか。三年前に背丈が追いつかれると、次の年には軽く見下ろされるほどになっていた。 (もう五年か……)  初めて航平に出逢ったのは彼が高校受験を控えた十五の夏だった。真夏の陽射しの下で、白い制服の半袖シャツから陽に焼けた二の腕が覗く健康的な少年だった。  若くして亡くなった愛しい人を忘れられず、あてもなくやって来た恋人の故郷で偶然にも彼の弟である航平と出逢い、そしてふたりで年に一度の墓参りに行くようになった。  毎年八月の決まった日、決まった時間に平和公園の原爆ドームを望める川沿いのベンチで待ち合わせる。そして純也の好きだった赤ワインとメンソールの煙草を買い、この地方特有の朝顔に似た盆灯篭と共に供えるのが、航平と笹木の密やかな夏の行事となっていた。  路面電車が寺町の電停に着いて、寒かった車内から炎天下の電停に降り立つ。それでも芯まで冷えきった体には瞬間、強い陽射しが心地好かった。  相変わらず口数の少ない航平の隣を笹木は肩を並べて歩いた。いつの頃からか、彼は供え物の荷物をすすんで自分が持つようになっていた。 「笹木さん、ほら、入り口に灯篭売っとるよ」  純也の墓のある寺の入り口に日除けの簡易テントを張って航平と同じ年頃のアルバイトの学生が暇そうに座っている。笹木は彼の後ろにずらりと並ぶ色とりどりの朝顔灯篭の中から、一番形が良く綺麗な物を選んで購入した。 「名前、書きますか?」  釣り銭を渡されてアルバイトに聞かれた。 「名前?」  釣り銭を財布にしまいながら笹木は聞き返す。 「それはええです。さ、行こう、笹木さん」  航平はここでもアルバイトから受け取った朝顔灯篭をさっと持つと寺の中へと入っていく。 (今日は航平くんの後ろを追いかけてばかりだ)

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