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第18話

 笹木は顎を伝う汗を拭って航平についていく。大きな背中は器用に荷物を一纏めに持って、手押しポンプからバケツに水を溜めているところだった。 (やっぱり去年より背が伸びている)  すっきりと後ろ髪を刈り上げたうなじは程よい褐色で、続く肩や背中のラインもTシャツ越しでも堅くしなやかな筋肉を纏っているのが判った。五年前はまだ華奢な子供っぽさが残っていたのに、たった数年でこんなに成長するのかと去年も思ったことを笹木はまた反芻した。 「笹木さん、すまんけどバケツ持ってくれる?」 (おや、少し口調が砕けてきた)  一年振りに会うと、どうしても最初は互いにぎくしゃくとしてしまう。でもそれもここに来る道々にそれぞれの一年間の出来事を話すうちに解れてくるのだが、今年はあの女の子のせいで時間がかかったようだ。 (LINEや電話でも話はするのにな)  航平がスマートフォンを持つようになってから、月に一、二度、思い出したかのように笹木の元へ連絡が入った。その内容は本当に他愛の無いものだったが、その裏側には親や周囲に押し込められて今にも爆ぜそうな鬱々とした熱が込められていた。  長男の純也が亡くなってからというもの、航平の両親は歳の離れた弟である航平に過度な期待をかけてきたようだ。そして兄と同じようにはさせまいと、その干渉を強めた。  思春期の少年にはそれは重い枷だったのだろう。かと言って、航平はその状況を両親の心の内を解るからこそ受け入れて、そして暴発しそうになると誰も存在を知らない笹木と話をすることでやり過ごしていたようだ。  狭い墓地の通路を前を行く航平の背中を目印にする。五年経っても、碁盤の目のような通路を挟んで並び立つ多くの墓の中から純也のものを探すのは笹木には無理だった。  それでも、航平がとある御影石の前に立ってこちらを振り返ると、ああ、ここだったな、と笹木は去年と変わらない光景にほっとした。だが何だろう? 何かが去年とは違う? 「何だか去年より灯篭の数が減っている?」

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