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第21話
(そうだ。この夏の太陽のような笑顔を見た途端に、まだ生きてみようと思ったんだ……)
その眩しい笑顔に目を細めて、
「そうだよ。来月の終わりが誕生日なんだ」
「ほうなんですか。もう、いくつになるんですか?」
航平は何の気なしに聞いたのだろうが、笹木は答えるのに少し躊躇して、
「三十七、かな」
ほうなんじゃ、と航平は相槌をうって何度か小さく笹木の誕生日を口の中で唱えた。
「航平くんはこの前、誕生日だったよね?」
「覚えてくれとったんですか? でも、この前言うても五月じゃし」
航平が嬉しそうにくしゃりと笑う。その顔に十五のころの幼さが少し戻っている。
「やっと二十歳になったんです」
「じゃあ、酒も煙草も大丈夫だね」
「……はい。じゃけえ、笹木さん。今日は俺が兄ちゃんに煙草を供えてもええですか?」
線香の代わりに純也が好んで吸っていたメンソールの煙草を一本供えることにしている。笹木は頷くと新品の煙草の箱を航平に渡した。
航平は物珍しそうに煙草の箱を眺めてから封を開けた。そして吸い口が綺麗に並んだ中から一本取り出すと唇に軽く咥える。笹木は使い捨てのライターのホイールを擦ると、点った火が消えないように左手で風を避けながら航平に差し出した。
少し前に屈んで航平が煙草の先を点った火の上に翳す。小さく燃え始めた煙草の先を見ながら、瞼を臥せて慎重に火を灯す航平の精悍な顔を笹木は息を詰めて眺めていた。
(もう純也の面影があるのは目元だけだな)
純也は男にしては色が白く華奢な体つきをしていた。どこか中性的なその雰囲気は客の男達に人気があって、笹木もその純也の姿かたちに魅了されたひとりだ。
女っぽい顔とは正反対の毒舌と男らしい性格をしていた純也に笹木は結構振り回されたりもした。それでも、おっとりとした優しい性格とどこか影のある雰囲気がよかったのか、純也は笹木を気に入ってくれて、ふたりはウリ専ボーイと客という間柄から恋人へとその関係を代えたのだ。
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