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第22話

 目の前の航平は今どきの爽やかな青年といった風貌だ。ともすれば女性と見違えるような純也とは全く違い、その肩や胸周りもがっしりとして、ふたりが並んでもとても同じ血を分けた兄弟だとは誰も気がつかなかったと思う。 (本当に男らしくなったな)  臥せた航平の顔を眺めて物思いに耽っていた笹木の前で、やっと煙草に火が点ったのか航平がライターから離れざまに大きく息を吸い込んだ。途端に、ぐふっ、とその喉がなるとゲホゲホと激しく噎せ始めた。 「航平くん!」  笹木は慌ててライターの火を消すと体を丸めて咳き込む航平の背中に手を添えた。 「大丈夫? 一気に吸いこんじゃったかな?」  添えた手のひらに温かくてしなやかな筋肉の動きが感じられる。さすさすと大きな背中をさすると、けほ、と航平は小さく咳き込んで涙の滲んだ右目を擦った。 「兄ちゃんは、ようこんなもの吸いよったなあ」  赤い顔をして息を整える航平の手から笹木は火の点った煙草を受け取ると、それを自然に唇に挟んでひと吸いした。  久しぶりに気管から両方の肺を煙に充たすと、暑さでバテそうになっていた体がすっきりと覚醒したような気がする。ふう、と細く煙を吹き出すと、ふと、隣の航平の視線を感じた。 「吸い続ければ慣れるけれど、あまり体には良くないから合わないのなら止めておいたほうがいいね」  笹木のかけた声に、はっと航平は何かに気づいたように肩を揺らした。そしてさらに顔を赤く染める。 「あの……、うまく点いとらんかったですか?」 「……ああ、火? ううん、初めてにしてはいいんじゃないかな」  両側に墓石が並ぶ狭い通路に爽やかなメンソールの香りが立ち始める。笹木は煙草を線香立てに供えると、その場にしゃがみこんだ。笹木の隣に航平も腰を下ろして、しばらくふたりして綺麗に磨かれた御影石を見上げる。そして航平はひと言、いつもの台詞を言った。 「兄ちゃん、おかえり」

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