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第24話

 純也や自分の家族を傷つけた男が何食わぬ顔をしてまだ教師をしている。それも自分を教える立場であるということに航平は激しい怒りを溜めていた。それが溢れだしそうになると航平は親が寝静まった深夜に、遠慮がちに笹木に電話をしてきた。あのころの笹木は通話料がいくら掛かっても、航平のやり場のない憤りを夜が明けるまで受け止めていた。  結局、その男は自分が捨てた恋人の弟が生徒としていることに気がついて精神的に追い詰められたのか、赴任して一年で教師自体を辞めてしまった。 (まだ自責の念があったのか、それとも航平くんが怖かったのか……) 「航平くん」  笹木が立ち上がりながら航平に声をかける。 「実は前から気になっていたんだ。その……、僕は純也の相手に似ていたのかな?」  恋人だったとはいえ、純也から明確に好きだの愛しているだのといった言葉をもらった訳ではない。 『あんたのこと気に入った。今度から客とボーイじゃなくて普通に会わない?』  何が気に入られたかは分からなかったが、そのころの笹木は結構な額を純也に注ぎ込むほど彼にぞっこんだった。だから純也にそんなことを言われて有頂天になった。  もちろん、ふたりの関係は周囲には秘密。それに純也がウリを辞めることもなかった。それでも金銭の授受のない関係は特別で、純也に請われるがままに遊園地や水族館、映画を観たあとに街中をそぞろ歩くという、異性のカップルがするようなデートを繰り返した。 (でも、それはもしかして僕が純也を捨てた相手に似ていたから?)  五年前、航平に純也が東京にひとり流れ着いた経緯を聞いた。そのときから微かに胸の奥で燻っていたこと。 『笹木さんをアイツの代わりにするな』  泣きながら拳を振り上げたあの日の航平の言葉……。  問いかけた笹木の不安げな顔を航平はじっと見つめた。やがて一つ小さく息をつくと、 「笹木さんはあんな奴になんか全然似とらん。アイツは背も低かったし腹も出とって顔も大したことなかった」

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