25 / 125
第25話
そしてからりと笑って、
「マジで兄ちゃん悪趣味じゃわって思うたもん。じゃけど笹木さんに会うて、付き合っとったって聞いてホッとしたんです。ああ良かった。兄ちゃんにはちゃんと美的センスが備わっとったって」
航平の否定の言葉に胸に遣えていたものがストンと無くなった。
(そうか。純也はちゃんと僕と付き合ってくれたんだ……)
出来れば純也が最期を迎えたとき、彼のことなど忘れていてくれれば良かったが……。
「実は笹木さんに言うとらんことがあるんです」
航平が笑顔を消して真っ直ぐに笹木を見つめた。
「俺が高二のとき、アイツが学校を急に辞めた真相。あのころ、俺は笹木さんに言われた通りにアイツをずっと無視しとったんですけど……」
その日は文化祭の準備で夜遅くなり、帰ろうと自転車を取りにひとりで歩いていたとき、男は人気のない駐輪場で辺りを気にしながら航平に声をかけてきた。
『あの……、純也はどうしとる?』
「兄ちゃんは死んだ。この世にはもうおらん」
ぼそりと言った航平の呟きを耳にすると彼はしばらくその場に固まった。その顔は、そんな馬鹿な、といった嘲りからゆっくりと驚きへと変化し、やがて蒼白になるとガタガタと震え始めたそうだ。
航平はそれだけを告げてその場を立ち去ったが、文化祭が終わると彼は体調不良を理由に学校に来なくなり、そして教師を辞めた。
「アイツが教師を辞めたって兄ちゃんは帰ってこん。それにどうもヤツは前から赴任した先々の学校で同じようなことを男女関係なくしとったらしいんです。俺の通った高校でも女生徒に手ぇつけて、その親が市のお偉いさんだったらしくて問題が明るみに出たんです」
(純也に対する自責の念から辞めたわけでは無いのか)
航平がひとつ鼻を鳴らして線香立てを見た。供えたメンソールの煙草はずいぶん前に紫煙を出さなくなっていた。
ともだちにシェアしよう!