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第26話

「何人かの被害者やその親が今度、ヤツを訴えるそうです。俺の親にも連絡があって親父は乗り気じゃないけれど、お袋は闘うみたいで。おかげで少し家の中がごたついとるんです」  そこまで言うと航平は急に口をつぐんでしまった。きっと言い過ぎたと思ったのだろう。笹木は少し心配になる。 純也の母親は息子が自分の知らない間に死んだことがなかなか受け入れられず、ときには思春期の航平に対して辛辣な態度を取っていたからだ。それなのに航平が自分の側から離れることを許さず、彼は東京の行きたい大学への受験を諦めたほどだったのだ。 (また、航平くんが思い悩むことが無いといいのだけれど)  吸い口のフィルターだけになった煙草を航平が片づけ始める。笹木も供えていたワインのボトルを紙袋へとしまった。この墓参りは誰にも知られてはいけないのだ。ここに二人で来た痕跡を残してはならない。  それでも朝顔灯篭だけはそのままにしておく。そして今年は笹木と航平の名前が、灯篭の内側に仲良く並んで記されていた。

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