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第27話

*** 「すみません。ここまで来て映画や買い物なんかに付き合うてもろうて」  少し蒸し暑い新幹線のホームのベンチで、航平はまた笹木に謝りの言葉を言った。 「本当に気にしないで。普段から映画に行くなんて無いし、久しぶりでとても愉しかったよ」  毎年、純也の墓参りが終わると最終の新幹線に乗るまでの間、航平と広島の街を巡っている。といっても今までは街中を大っぴらに歩いて航平の知る人に会うと大変だから大抵は郊外に、例えば宮島や岩国、呉などの観光地に行ってはふたりで緩やかな時間を過ごした。 (きっと不思議だったろうな……)  年の離れた少年を連れた喪服姿の中年男なんて怪しいことこの上なかっただろう。それでも、航平の背が笹木と並んでくるとそんな違和感は薄れてきて、嬉しそうに隣を歩く航平の姿を見ることが年に一度の楽しみにもなっていた。 「それに広島の街をゆっくり観られて良かったよ。きっとここは住みやすいんだろうね」 「ここがですか? 東京に比べたら田舎で、なんも無いと思うけど」 「いや、とてもコンパクトで機能的と言ったらいいのかな。徒歩圏内で映画も観られて、買い物も出来て銀行や官庁、飲食店もある。東京じゃ、ちょっとそれは難しいかな」  そんなもんですか、と航平が興味深々で相槌を打った。 「それに今日はゆっくりとお土産も買えた。きっと会社の人達は航平くんおすすめのもみじ饅頭を喜んでくれるよ」  夏の休みに入る前日、珍しく会社の女性達にねだられたのだ。どうやら彼女達の中では、休みが明けると笹木が手土産にもみじ饅頭を差し入れるのが定番になっているようだ。  もうすぐ最終の新幹線がホームに入ってくる。去年までの航平なら、この時間になると不安そうにちらちらと笹木の顔を窺ったものだ。だが今年は少し様子が違う。笹木の隣に座り、なぜか前をグッと睨みつけたまま彼はピクリとも動かない。

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