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第28話
(どうしたのかな……)
航平の様子に笹木のほうが不安になって、声をかけようとしたときだった。
「……笹木さん。そのワイン、今年は飲まんとって」
いつも純也の墓に供えた赤ワインは笹木が持ち帰っていた。毎年、コンビニの棚にある量の少ない物を選んでいたから、東京までの長い乗車時間の中で飲みきっていたが、今年は結局、本通りの専門店で結構良い物を買ったのだ。
「いいけれど……。もしかして、一年寝かせて来年持ってくればいいの?」
ワインセラーなんて当然、笹木の家にはない。管理が難しそうだな、なんて考えていると、
「来月の笹木さんの誕生日に一緒に飲みましょう」
真っ直ぐに前を見つめたままの航平の言葉に思わず、えっ? と聞き返した。
航平の喉仏がこくんと微かに上下する。そして何かを決心したように一つ息をつくと、ゆっくりと笹木に顔を向けた。
(――あ、)
そこには笹木が初めて見る航平の優しい笑顔。いつも笑うときは大きく口を開けて真夏の太陽のような笑顔をしていた航平が、今は何かをゆったりと包み込むような静かな笑みを溢していた。
「来月、俺、笹木さんに会いに東京に行きます。初めてじゃけえ、いろいろ観たいところもあるんです。それであの……。迷惑じゃ無かったら、笹木さんの家に泊まらしてもらえると凄く嬉しいんじゃけど……」
初めての航平の申し出に笹木は小さく息を呑んだ。なぜか耳の奥がざわざわとざわついている。それが心臓が大きく打っている音だと気がついたとき、航平が、
「あの、やっぱり迷惑……ですか?」
(ああ、いつもの不安そうな顔だ)
笹木は大きく顔を横に振ると、
「迷惑なことなんて無いよ! ぜひ来てくれ。歓迎するよ」
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