30 / 125

第30話

*** 「それでは今週もよろしくお願いします」  月曜日の午前中、いつものミーティング解散の挨拶をすると同じ課の社員達が「お願いします」と声を揃えた。いつもならここで終わりだが今日はひとりの女性社員が、 「あ、すみません。わたし、今週の金曜日は代休をいただきます」  彼女には先週の土曜日に急遽、休日出勤をしてもらった。他の面々も分かっているから、うんうんと相槌を打つ。 「それに課長も今週お休みじゃなかったですか?」  彼女に話を振られて笹木もはっと思い出す。そうだ。自分も今週は休日出勤の代替休暇を申請していた。笹木は慌ててそれを部下達に伝えると、数人の女性がくすくすと笑って今日も和やかにミーティングは終わった。 「でも珍しいですね、課長がこんなに長く連休を取るなんて」  そうなのだ。本当は木曜日の午後と金曜日の一日を休む予定にしていたのに、直属の部長から「笹木君はもっと休まないと人事にうるさく言われる」と無理矢理に水曜日から日曜日までの五日間も休みを取らされてしまった。  部下達と会議室を出て、自分のオフィスに戻っていると、 「結構長いお休みになりましたけれど、どこかに行かれるんですか?」 「ううん、旅行の予定は無いんだけれどね。でも、……」  そこまで言って笹木はふと、彼女達に聞いてみる。 「……若い男の子が行ってみたいところって、どこがあるのかな?」  笹木の唐突な質問に彼女達は顔を見合わせると急にその瞳を輝かせた。 「課長、その若い男の子って具体的においくつなんですか?」 「二十歳の大学生なんだ」  わあ、と一気に廊下が華やかな声に満たされた。 「どういったご関係なんです?」 (どういった関係? そういえば、僕と航平くんはどのような関係なのだろう?)  笹木は少し歩く速度を落として左手で頬を撫でた。確かに航平は亡くなった恋人の弟だが、果たしてそれはどう形容すれば良いのやら……。

ともだちにシェアしよう!