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第36話

(大学のキャンパスなんて何年振りだろう……)  笹木は思いもかけず来ることになった、かつての母校の校舎脇を航平と歩きながらノスタルジーに浸った。  遠くからグラウンドで練習をしているアメフト部のかけ声が流れてくる。前からは授業が終わったのか、数人の女子学生が楽しそうにお喋りをしながら歩いて来た。彼女達は笹木と航平の横をすれ違うとき、一瞬ぴたりと口を閉じると横目で航平の顔を見て頬を少し赤らめた。 (やっぱり目立つんだよな、航平くん)  背が高く肩幅も広い航平の歩く姿は、すらりとしていてつい見入ってしまう。きっと渋谷にでも歩いていたらモデル事務所のスカウトの目に留まるだろう。  校舎のひとつに案内して、航平が事務局のカウンターで職員と話しているのを少し離れたところから眺めた。何かの資料を受け取った航平は丁寧に職員に頭を下げると、また照れくさそうに笹木の元へと駆け寄ってきた。 (これで三校目なんだよな)  昼食が終わったあとに航平のひとつ目の目的を聞くと、何と彼は大学に訪問したいといくつかの学校名を言った。しかもそのうちの一つが笹木が卒業した母校で、どの学校でも事務局で資料をもらい、待っていた笹木と目が合うと航平は嬉しそうに照れ笑いを浮かべていた。  うきうきとした気分で校舎を一緒に出た航平に、 「実はね、この先に僕が学生のころ良く使っていたベンチがあるんだ。ちょっとそこでひと休みしないかい?」  はい、と明るく返事をした航平を連れてキャンパスの端にあるベンチを目指す。学生時代は随分昔だが、まだ件のベンチは健在で笹木はとても懐かしく感じた。  先にベンチに座って、どうぞ、と航平を促す。航平はひとつ頭を下げてすとんと笹木の隣に腰をかけたが、互いの肩が触れ合うほどの近さに笹木の胸は小さく跳ねあがった。

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