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第37話

「……いったい、何をもらってきたの?」  胸の動悸を航平に気づかれまいと、途中で買った缶コーヒーのプルタブを開けながら問いかけた。航平もプシッとキャップの音をさせてコーラの蓋を捻ると、飲み口を咥えたまま器用にリュックの中からそれぞれの大学の封筒を取り出して笹木に差し出した。 「見てもいい?」  ごくりとコーラで喉を鳴らした航平が頷いた。笹木はがさがさと母校の封筒から資料を取り出して目を走らせる。 「これは……。航平くん、もしかして東京の大学に編入したいのかい?」  口から炭酸をすう、と吐き出した航平が大きく頷いた。  もともと航平は建築に興味を持っていて、いくつか行きたい大学があるのだと笹木に言っていた。だが、広島から出ることを両親に強く反対されて、渋々、地元の大学を受験した経緯を笹木は知っている。 (今の大学だって広島じゃ結構良いところなのに……) 「前に受験で悩んどったとき、笹木さんに教えてもろうたことを実践しようと考えたんです」  近くで微笑む航平の顔と手の中の書類を交互に見比べて、笹木は当時の自分のアドバイスを思い出した。 「三年次からの編入や社会人入学枠のある大学もあるって。ネットで調べたらちょうど行きたかった大学でも制度があったけえ、バイトして金を貯めて、でも単位は落とさんようになるべく取れる講義にも出て……」 (そうだったのか――)  笹木は航平の頑張りに驚いた。あのときは過度な両親の束縛に苦しんでいた航平の気が少しでも楽になるようにと話したことだったのに、航平は自分の夢を叶えるために必死で努力をしていたのだ。

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