38 / 125

第38話

「凄いよ、航平くん」  感嘆の声をあげた笹木に航平は鼻の頭を掻きながら恥ずかしそうに笑った。 (ああ、いい笑顔だな)  その様子に笹木も嬉しくなる。そして、 「航平くんが東京に来るのなら僕もいろいろと協力してあげるよ。ほら、住むところとか探さないとね」 「まだ気が早いけん。……それよりも先に片づけんといけんことも残っとるんです」  笑っていた航平の顔が少し真顔になった。 「それはご両親のこと?」  航平はゆっくりと首を縦に振って、 「親父はええんですけど、お袋が。ちょっとは話を聞いてくれるようにはなったんじゃけど」  航平はきっと長い時間をかけて両親を説得したのだろう。 「笹木さん。実は俺、親父に全部話したんです」 「全部? なにを?」 「五年前から笹木さんと年に一回会っとること。そして、ふたりで兄ちゃんの墓参りに行っとることも」  そのことを航平に打ち明けられても笹木は特別驚きはしなかった。いつまでも隠しておけるわけもない。それに笹木自身もその内、純也の元には訪ねないほうが良いのではないかと考えていたのだ。 (きっとここら辺が潮時なんだ)  あのとき、病院の霊安室の前の冷たい廊下で激しい怒りを笹木にぶつけた航平の両親の顔は忘れることはない。 (怒られたんだろうな、航平くん……)  しかし、航平の続けた言葉は笹木には意外なものだった。 「親父が笹木さんに謝っとりました」 「……お父さんが僕に?」 「兄ちゃんが死んだときは急で何も信じられんで冷静でおられんかったって。笹木さんは兄ちゃんを病院に連れていったり、連絡をくれて警察にも事情を話してくれたんですよね? あの夜、兄ちゃんと飲んどった仲間も探しだして詳しい経緯も聞き取ってくれて。なのに酷いことを()うたって言っとりました」

ともだちにシェアしよう!