41 / 125

第41話

「彼岸花の花言葉って何かな?」  何の気なしに航平に問いかけてみたが、航平は少し眉間に皺を寄せて何かを思い出すような素振りをすると「……すみません。忘れてしもうた」と恥ずかしそうに答えた。それを笹木は笑顔で受けとって、 「そろそろ風も冷たくなってきたし家に行こうか。夕飯は何が食べたい?」 「夕飯って笹木さんが作るんですか?」 「まあ、ひとり暮しが長いからね。これでも僕も学生時代は飲食店の厨房でバイトしたりしていたんだよ」  航平の顔が興味を引かれたように明るくなる。そういえば年に一度会うときには、こんな話などすることはなかった。 「航平くんは料理はできる?」 「はい。でも簡単なもんしか」  笹木は航平に大学案内の書類を返すとゆっくりとベンチを立った。 「じゃあ、買い物して帰ろう。そうだ、あのワイン今夜飲むかい?」 「今夜? でも笹木さんは明日が誕生日……」 「明日は外で食べようよ。会社の同僚達がいろいろといい店を教えてくれたんだ。それに航平くんのもうひとつの目的も叶えないとね」  ちょっと航平は納得のいかない顔をしたが、すぐににこやかに、 「ええですよ。俺、肉が食べたいな」 「ははっ。若いなあ、航平くん」  航平は笹木から受け取った書類の封筒をリュックに仕舞い、サッとベンチから立ち上がった。そして、「じゃあ行きましょう」と笹木の隣にピタリと寄り添うと、また軽く航平の手が笹木の背中に添えられた。

ともだちにシェアしよう!