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第43話
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デパ地下で購入した惣菜をちゃんと皿に盛り直した笹木は、テーブルを挟んで向かい合った航平に柔らかく笑いかけながら、封を開けたワインを勧めてくれた。
「航平くんって、そういえばアルコールは大丈夫?」
笹木が広島に来たときは夕食までは一緒に過ごしたが、酒を飲んだことはなかった。
「はい。まあ人並みには飲めると思います」
ワイングラスに注がれた深い紅に少し背筋を伸ばした。笹木がグラスを航平に向けて掲げると航平も慌てて赤い液体の入ったグラスを手に取った。
「じゃあ、あらためて。いらっしゃい、航平くん」
「はい、笹木さんも一日早いけど誕生日おめでとうございます」
カチンと小さく鳴らしたワイングラスを口元へと運ぶ。ふわりとした甘い香りを鼻腔に取り込んで口に含むと、甘さの中に微かな酸味と熱さが喉を通っていった。
そこからは和やかにふたりだけの晩餐が続いた。航平は昼間に訪ねた笹木がかつて学んだ大学のことを根掘り葉掘りと聞き出した。笹木は昔を懐かしみながら学生時代の思い出を語ってくれた。
ボトルの底に残ったワインをふたりで仲良く分けるころには、航平は絶対に笹木の母校に転入しようと心に決めていた。
「だけど、こうやって誕生日を誰かに祝ってもらうなんて何年ぶりだろう」
少しのアルコールが笹木をいつもよりも饒舌にさせているようだ。その頬もほんのりと赤く染まって、航平は随分年上の笹木を可愛いと思ってしまう。
「……兄ちゃんに祝ってもらったりしたんですか?」
残り少なくなったワインを唇に寄せた笹木に問いかける。笹木はグラスの縁が唇に触れる寸前で止めると、
「そうだね……、一回だけ」
ぽつりと言うと笹木はグラスのワインを全て口に含んだ。天井からの灯りに透かされて笹木の唇に消えていくワインの赤色は、夕方に見たリコリスの花弁を思い出させた。
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