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第44話
(ふたりはいつから付き合うたんじゃろ?)
純也と笹木の出逢いはウリ専ボーイとその客だと初めて会ったときに聞いた。そのころはウリ専ボーイがどんな仕事なのか漠然としていたが、今はもちろん意味は判っている。金で体を売り買いするのではない関係に、ふたりが進んだ経緯を今さら聞こうとも思わないが、
(笹木さんはまだ兄ちゃんのことが好きなんじゃろうか……)
毎年、夏が訪れるたびに航平は笹木のことを待ちわびていた。その日が近くなると、なぜか気分がそわそわと落ち着かなくなり、純也の墓参りが終わったら今年はふたりでどこに行こうかと考えるだけで楽しくなった。
一年振りに平和公園のあの川沿いのベンチへ向かうときには、いつも心臓が破裂しそうなほど早鐘を打った。
先に自分がベンチに着いて笹木が来るのを待つ間は、実は笹木は今年は来ないかもしれないというネガティブな考えが頭に浮かんでは消えて仕方がなかった。
逆にベンチに腰をかけて航平を待っている笹木の後ろ姿を見つけたときには、天にも駆け上がれるような気持ちになった。
ふたりで逢える時間はあっという間で広島駅の新幹線口に向かうにつれ、いつも気分は下降していった。そして、笹木の乗った列車が見えなくなるまで見送ると、もうこれが彼に逢える最後かもしれないと寂しさと不安で胸が一杯になった。
(じゃけえ、今年は勇気を出してみたのに)
なのに、目の前の笹木はいつもと変わらずに優しい瞳を航平に投げかけてくれる。
あの去り際の告白はちゃんと彼に聴こえていたのだろうか? 雑多な音の響く駅のホームでの言葉は、きちんと笹木の耳には届かなかったのかもしれない。
(頬っぺたにキスまでしたのに……)
薄紅の笹木の左頬を眺めていると、ふと彼と視線があった。にこりと笑い、少し首を傾げられて、航平は自分の顔も熱くなるのを感じながら慌てて視線を外した。
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