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第45話

「ああ、もうこんな時間だ。航平くん、そろそろお開きにしようか」  笹木が壁の時計で時間を確認して航平に微笑む。航平も時計を見て、もうすぐ日付が変わるのかと驚いた。 (楽しい時間は本当にすぐに過ぎてしまうな) 「僕はここを片付けるから航平くんは先に風呂に入ったらいいよ」  笹木の申し出に航平はありがたく従うことにした。それでも皿やグラスをまとめてキッチンのシンクへ運んでいると、 「明日はどこに行きたいの?」  笹木の問いかけに航平は少しドキリとする。  こんなお願いをしても笹木は笑って引き受けてくれるだろうか?  実はそのことが気になって、行きの新幹線では満足に眠ることも出来なかったのだ。言い澱む航平の様子に笹木が少し心配そうな視線を投げている。 (――笹木さんに隠しごとはできんわ)  小さく皺が浮かんだ目じりを紅く染めた笹木の瞳を真っ直ぐに見つめ返すことができない。航平は視線を逸らしたまま、 「……明日は兄ちゃんが過ごした街を見てみたい」 「……純也の?」 「兄ちゃんの住んどった家とか笹木さんと一緒に行ったところなんか……。それから兄ちゃんが最期を迎えたホテル、とか……」  隣で笹木が息を呑むのが空気を伝って感じられる。判っている。これが笹木にとってどんなに辛いことか。 (だけど、それを知らんと俺も先に進めん)  何の音もなく、ふたりでその場に立ち尽くしていた。しばらくして笹木は手を延ばして蛇口を捻ると、シンクに置いた汚れた皿やグラスの上に水が注がれる音がやけに大きく響いた。 「……純也の住んでいたところは分からないけれど、僕とふたりで行った場所なら案内できる」  キュッ、と濡れた手で笹木が水を止めた。そして隣に立つ航平の顔を少し見上げると、 「それでも良ければ、明日連れていってあげるよ」  切なげに笑う笹木の表情に航平は胸をぎゅっと締めつけられた。

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