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第48話
「やあ、航平くん、久しぶり。ごめんね、遅くなってしまった。暑い中を待たせちゃったね」
笑って言う笹木の首筋を光る汗が流れていく。
これくらいの時間なんて遅れじゃない。だって、自分は去年から一年間も笹木に逢えることを楽しみに待っていたのだ。
ふと、そんな想いが頭を過って航平は恥ずかしくなってしまった。そして同時に、きっと笹木も自分に会いたかったから、この暑い中を急いで来てくれたのだととても嬉しくなった。
笑いながら流れる汗を拭い、ふぅ、と息を整えた笹木は「今日も暑いね」と言ったあと、
「ああ、やっぱり追い越されちゃったか」
「なん?」
「ほら、背丈。去年辺りからそろそろ追い抜かれちゃうなと思っていたんだ」
確かにそうだ。去年は笹木と同じ目線だったのに今年はその顔を少し見下ろしている。
(じゃけえ、なんかいつもと笹木さんの顔つきが違うんじゃろうか)
優しい笑顔は変わらないが、なんというか、かまいたいというか、可愛く見えるというか?
「……あ、……うん」
追い討ちをかけるようにそんな思いが頭に浮かぶと、航平はますます恥ずかしくて自分でも訳も解らず、おどおどと後ろ頭を掻いてごまかした。
ちょっと座ろうか、と笹木はいつものベンチに腰を下ろした。航平も隣に座ると笹木は持ってきていた小さな紙袋を航平の前に差し出した。
「何ですか?」
「遅くなってしまったけれど、大学入学のお祝いだよ」
そのサプライズに、えっ、と驚きの声をあげる。紙袋を受け取ると「開けてみて」と笹木に言われた。
ワクワクしながら小さいけれど立派な作りの紙袋から鮮やかなブルーのリボンのかかった包みを取り出した。リボンをほどいて丁寧に包み紙を拡げていく。現れた箱はグレーのビロードでどこかで見たことのあるロゴが刻印されていた。こんな立派な箱は初めて見たと、パクンと蓋を開けてみると――。
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