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第49話
「うわっ、凄い!」
現れた物を見て航平は思わず大声をあげてしまった。そこにあったのは深い青色の文字盤のクロノグラフ。銀色のベルトはチタンだろうか。正確に時を刻む腕時計は、精密機械特有の美しい存在感を漂わせていた。
「航平くんはいつも時間を確認するのにスマホを見ていたから。もしかしたら腕時計は苦手なのかなって思ったんだけれど、なぜかそれしか思い浮かばなくてね」
照れながら早口で言う笹木の顔と腕時計を交互に眺める。そして満面の笑みを浮かべると、
「凄く嬉しいです。今まで腕時計をせんかったんは気に入ったんが無かったけえ。これ、さっそく嵌めてみてもええですか?」
もちろん、と笹木に言われて航平は慎重に腕時計を手に取った。それは小さな時計なのにずしりと重くて、冷たさが心地良い。触ってしまって自分の指紋がつくのが勿体無いくらいだ。
腕時計を左手首に通す。そしてバックルを留めようとしたが普段着け慣れないからか、もたもたともたついてしまう。すると、悪戦苦闘している航平の様子を隣で見ていた笹木が「ちょっといい?」と左手を延ばしてきて航平の手首を掴んだ。急に柔らかく掴まれて左手を上向かされると、航平の心臓が大きく脈打った。
「慣れないと難しいよね」
そう言いながら、笹木は慣れた手つきでパチンとバックルを嵌めた。そして留めた右手の指でベルトの緩みを確認すると、
「長さもちょうど良かったみたいだ。どう? きつくない?」
自分の左手首から離れていく笹木のきれいな手を目で追う。彼の左手首に嵌められた時計を見て、同じブランドのものだと気づくと航平はさらに嬉しくなった。
真新しい腕時計を着けた左手を空へと突き出してみる。夏の太陽を遮る木々の葉の間から細かく落ちる木洩れ日に反射して、腕時計はキラキラと輝いた。
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