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第50話
「うん、やっぱり青にして良かった。航平くんに良く似合っているよ」
航平と同じように少し顎を上げて掲げた腕時計を見る笹木の横顔に、自分の頬が火照るのが分かる。思わずその横顔を見惚れていると、笹木が航平の視線に気がついたのか顔をこちらに向けてにっこりと笑ってくれた。
(っ、うわっ!)
一体、今日はどうしたのだろう? なぜかまともに彼の顔を見ることができない。それでも、ちゃんとお礼は言わないと。
「笹木さん、凄く嬉しいです。ほんまにありがとう」
「本当は事前に航平くんの欲しい物を聞けばよかったんだけれど」
「ううん、充分過ぎるよ。絶対に大切にするけえ」
こんなに高価な物、両親に見つかったら大変だ。家では普段使っている鞄に隠して、外で着けよう。
純也の件があってから両親は親戚付き合いをやめてしまった。以前は歳の近い従兄弟達もいて、航平と同じように進学などが決まると親戚同士でお祝いをしてくれたものだ。でも今は、自分が大学に入学したことなど親戚の伯父や伯母は知らないだろう。
だから、こうして笹木に祝ってもらえることは航平にとって余計に嬉しいことだった。
左手の角度を変えて腕時計に見入っていると、
「じゃあ、そろそろ純也のところに行こうか」
それはいつもの台詞だった。去年は確か航平の方から同じように笹木に言った気がする。でも、なぜだろう? 航平はまだ、笹木とふたりだけでこのベンチに座っていたい気分になった。
(何を考えとるんじゃ。笹木さんは兄ちゃんに会いに来るのが目的じゃろうが。それに墓参りが終わったら、いつも俺に付きおうてくれるじゃないか)
笹木の言葉に「はい」と空元気を出して返事をすると、航平は膝の上の腕時計の空き箱を丁寧にしまって立ち上がった。それを見た笹木も立ち上がろうとしたときだった。
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