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第52話
別に日にちなんて一日二日ずれたところで変わりはしない。でも笹木は必ず航平と決めた日に広島までやって来る。そして最終の電車で帰るのだ。一度、広島に一泊してはどうかと言ってみたが、どうやら仕事が山積みのようでゆっくりとは出来ないみたいだった。
必ず約束通りにここに来てくれる。それはとても嬉しいけれど――。
笹木は完全に航平から離れると心配そうに見つめる航平に向かって、
「でも、すっかり逞しくなったね、航平くん」
「えっ?」
「初めて会った頃はまだ線も細くて男の子って感じだったのに。背も抜かれちゃったけれど、肩幅も負けてるな」
笹木は素直に感想を述べただけなのだろうが、航平の顔を赤く染めるには充分な台詞だった。
ふふっ、と笑って笹木が歩き始める。航平も置いていかれないようにその隣を歩き出した。
ふたりで原爆ドーム前から路面電車に乗り込むと、涼しい車内に笹木はほっとしたように長椅子に座った。航平も同じように隣に座ると、少し互いの肩が触れあった。
ほんのりと色の戻ってきた笹木の顔を横目で眺める。形の整った眉に二重の瞳、思いのほか睫毛が長くて、すっと伸びた鼻梁は少しシャープな印象さえ与える。
きっと純也と並んで歩いていたら、すれ違う人達から視線を向けられるほどのカップルだったに違いない。
何の因果か航平は全然純也に似なかった。かろうじて血の繋がりを示しているのは目元くらいのものだろう。
(笹木さんは兄ちゃんみたいに色が白うて華奢な感じの奴が好みなんかな……)
今でさえ、こうして物言わぬ純也の元に通ってくるのだ。もしかしたら他に付き合っている人はいないのかもしれない。
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