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第53話
(でも、それって裏を返せば、兄ちゃんをまだ好 いとるって事よな……)
「今日は純也のところのあとは宮島に行くんだったよね?」
笹木が言いながら航平のほうを向いた。ハッと気がついたときには笹木の視線は航平を捉えていて、近い距離でふたりで顔を見合わせて黙ってしまう。しばらくそのまま視線を合わせていると、航平達が降りる電停がアナウンスされて、航平は照れを隠すように勢い良く立ち上がった。
「宮島は前にも行ったし今日は行かんでええです」
航平はぶっきらぼうに言って電車を先に降りた。
「この暑いのに笹木さんを歩かせるのは心配じゃし。今日は終わったら涼しいところで……」
そこまで言うと航平は、あの告白されて付き合いを断った高校の頃の後輩の女の子の言葉を思い出した。付き合えないとはっきりと断ったのに彼女はいまだに何かあると航平の前に現れて、この前も街中の大きなデパートの催しものにふたりで行こうとまとわりついて煩かったのだ。そうだ。あそこなら……。
「笹木さん、金魚好き?」
金魚? と少し後ろを歩く笹木が聞き返してくる。
「今、ちょっと変わった金魚の展示の催しをやっとるんです。かなり評判なんじゃって。そこなら涼しいし俺もどんなんか見てみたいけえ、行きませんか?」
そこまで言って、しまったと考えた。あのアクアリウム展は全国を巡回している。当然、東京でも長く開催されていて笹木はとっくに観たかもしれないのだ。でも笹木は、
「金魚をアートのように展示するなんて面白いね、興味があるなあ。それに涼しいところは正直、嬉しいかも」
提案を喜んでもらえて航平はホッとした。思わずへにゃっと笑ってしまった航平に、
「広島に来たら、航平くんがどこに連れていってくれるのかをとても楽しみにしているんだ」
にっこりと微笑んでくれた笹木の顔。
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