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第54話
(笹木さん、かわいい――)
「航平くん、コンビニに着いたよ? 今年はどの朝顔灯篭にしようか」
思ったことにひとり顔を真っ赤にして息を呑んでいた航平に、笹木が瞳を三日月に細めて視線を合わせてくる。
(うわ、どうしよ。何で今日はまともに笹木さんの顔を見れんのんじゃ)
これがいいかな? と灯篭を選ぶ笹木の後ろ姿を見て、急に航平はこの胸の高鳴りの正体に気がついた。そうか、俺……。
笹木さんのことが好きなんじゃ――。
それも今までのような大人の男に対する憧れの感情ではない。とにかく心臓がやけに早鐘を打つし、彼と視線が合うとと恥ずかしくて仕方がない。でも、いつまでもその姿を見つめていたいのだ。
ああ、だからか。だから、今までいろんな女の子から告白されても本気になれなかったのだ。航平の中で随分前から笹木への想いは小さな卵になっていて、そして今、孵化したのだ。
この想いはどう形容したらいいのか。航平はまだ誰かを好きになったことが無い。これは本当に恋する気持ちなのだろうか?
(兄ちゃんも笹木さんに対して、こんな気持ちを持っとったんじゃろうか?)
そう思ったとたん、航平は不意におかしくなってしまった。自分と純也は全く似ていない兄弟だったのに、好きになった人は一緒だったから。
(もしかしたら、俺も男のほうがええんかな……?)
笹木にもう一度呼ばれて航平は返事をすると、選んだ朝顔灯篭を持つ彼の元に駆け寄った。
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