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第57話

「わぁ。背も高くて格好いい。でも課長とは似ていませんね」 「……遠い親戚だからね。航平くん、彼女は僕の勤め先の同僚なんだ」 「同僚じゃないですよ。部下です、部下」  女性の興味津々の視線に航平はたじろいでしまう。それでも何とか、 「笹木さ……、いえ、智秋さんがお世話になってます」  隣の笹木が少し眼を見開いた。彼女は挨拶を返してくれて、ころころと笑い声をあげると、 「お世話になってます、なんてしっかりしてるのね。私の弟と同じ歳くらいかしら? あなたと違ってうちの弟はダメダメで」  彼女の言葉に何と返していいのか解らなくて、はぁ、と航平は照れ隠しに後頭部を掻いた。 「でも本当にどうしてここに? 観光ならもっと良いところがあるのに」  彼女の興味にさらに突っ込まれて笹木が黙ってしまう。それを見た航平は、 「せっかくなので智秋さんの働いているところを見たいってお願いしたんです。そのうち俺も智秋さんみたいに東京で仕事がしたいなって思って……」  満更嘘ではないが、咄嗟の航平の言葉になぜか彼女は感動して、 「そうなんだ。課長は君の憧れの人なのね。ああん、時間があれば一緒にお茶でもしたいところだけれど、今から郵便局に行かないといけないの」  心底残念な表情で彼女は言ったが、すぐにパッと明るい笑顔を見せると、 「東京観光楽しんでね。課長。今のところ業務に問題は出ていないので、ゆっくり彼に付き合ってあげてください」  ひらひらと手のひらを振って彼女はヒールの音を響かせながら雑踏に消えていった。 「……まずい子に見つかったな」  苦笑気味に言う笹木に航平が小首を傾げる。 「彼女はおしゃべりが好きなんだ。それに格好いい男の子もね。きっと会社に戻ったら、君のことを他の社員にも言いふらしちゃうよ」  それでも笹木の苦笑いには迷惑だといった感情はない。それよりも、 「航平くんに下の名前を呼ばれて、ちょっと驚いたよ」  はにかんで頬を赤らめた笹木の指摘に、この期に及んで航平は心臓が早鐘を打っていることに気がついた。

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