58 / 125
第58話
それから笹木は純也との想い出を手繰るようにいろいろな場所へと航平を案内した。
「純也はなぜかこの水族館が好きでね。いつもその場にいた子供達と一緒に歓声をあげてイルカのショーを見ていたんだ」
品川駅に近い小さな水族館が特にお気に入りだったようだ。
「あとは普通に買い物に行ったり、映画を見たりして過ごしていたよ」
移り行く街の景色を航平は忘れないように瞳に模写していく。
「でもね、あまり昼間に出かけることはなかったな。ほら、純也はあんな仕事をしていたし、僕も忙しかったりしたから」
「じゃあ、夜が多かったんですか?」
「そうだね。ふたりで待ち合わせて食事をしてから、いつも決まったバーで飲んで、それからホテル……」
笹木が急に口をつぐむ。きっと続く言葉は「ホテルに行ってセックスをした」だ。それを赤裸々に航平に告げられるわけもない。
「……笹木さんは兄ちゃん以外の、その……。ボーイって人達には会うたことあるんですか?」
一応ここは街中だ。歩きながらの会話に航平は慎重に言葉を選んだ。
「あるよ。でも、そういった行為をしたのは純也の前にひとりだけ。初めて頼んだときと二回目がその子だった。そして三回目に来てくれた人が純也だったんだ」
笹木の答えに少しだけ安堵する。もっと沢山のウリ専達と夜を共にしていたとしたら、ちょっと幻滅したかもしれない。自分の性の話をするのはとても恥ずかしいことだろうに笹木は嫌がる素振りもなく、真摯に航平の疑問に答えてくれている。笹木が腕時計を確認して、
「そろそろお腹が空いたよね。この近くに純也が気に入っていた店があるんだ。そこで夕飯にしようか」
はい、と航平は頷くと、そうじゃ、と何かを思い出したように声をあげて、
「笹木さん、さっき、兄ちゃんといつも決まったバーに行ったって言いましたよね? 今夜、俺もそこに連れていってもらえますか?」
「……別にいいけれど、どうして?」
「いつもってことは常連じゃったんかなって。もしかしたら、笹木さん以外にも兄ちゃんを知っとる人がおるかもしれんし」
ともだちにシェアしよう!