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第59話
笹木が語る純也の姿はどれもキラキラとしていて実はあまり実感が湧かない。航平の知る純也は礼儀に厳しく口うるさかったけれど、年の離れた航平を可愛がってくれた優しい兄だった。
でも、純也はきっとこの街にひとりきりで辛かったり、寂しかったりしたはずだ。そのときに笹木以外にも兄を支えてくれた人達がいるのなら会ってみたい。
笹木が航平の真意を図るように瞳を向けているのが分かった。航平は隣の笹木の顔を黙って見つめ返した。
「……分かった。夕飯が終わってから行こう」
笹木は静かにそう言うと、ありがとうと礼を言った航平に何とも形容し難い表情を見せた。
「でもね、航平くん。行く前にちょっと心づもりをしておいてもらわないと」
「何ですか、それ?」
「その店のママがね。いい人なんだけれど、ちょっとキャラが強烈だから心しておいてね」
(どんなに怖いところなんじゃろ?)
それでも捕って喰われることはないだろう。航平は空腹に鳴き始めた胃の辺りを押さえて、肩が触れるほどに笹木に寄り添うと賑やかな街へとふたりで入っていった。
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