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第62話

「ママ、いい加減に離れてあげてくださいよ。彼が困っているでしょう?」  左側には笹木、右側にはなぜかママがどっこいせとスツールに座ると、バーテンダーの苦言はどこ吹く風で相変わらず航平の右腕に絡みつくママが、 「お歳はいくつなの? お酒は大丈夫かしら?」 「もう二十歳なんで大丈夫です」  あらあ、若いわあ、と大袈裟に言うママに若干ウンザリしながら、航平は熱いおしぼりで手を拭く隣の笹木のほうに少し体を向けた。 「笹木さんとおんなじもんでええです」 「じゃあ、僕はビールをもらうよ。彼にも同じもので」  カウンター向こうのバーテンダーが手際良くビールを準備するさまに、東京の人はみんな垢抜けているな、と航平は感じていた。  細めのグラスに入ったビールがふたりの前に差し出されると笹木がグラスを持ち上げた。航平も目の前のグラスを取ると笹木のグラスに小さくかち合わせた。 「ねぇ笹木さん。そろそろ彼を紹介してよう」  散々べたべたと触りまくって満足したのか、やっとママが航平の正体を気にし始めた。笹木はグラスを静かに置くと、 「航平くん、こちらはこの店のオーナーのラン子ママとバーテンダーのタクミくん。僕が君のお兄さんに逢う前から、お兄さんのことを知っている人達だよ」  航平は背筋を延ばしてふたりに軽く一礼をした。その様子を柔らかく見ていた笹木が今度は、 「彼は広島から来た平野航平くん。……純也の実の弟です」  明らかにラン子ママとタクミが驚きに息を呑んだのが分かった。先ほどの浮かれた雰囲気が隣のラン子ママから薄れていく。

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