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第63話

「……そう、あなたがジュンヤの……。笹木さんが毎年、ジュンヤのお墓参りに一緒に行っている子ってあなただったのね……」  しみじみと言うラン子ママにカウンター向こうのタクミも小さく頷いている。 「彼は僕以外の人から純也がこの街で暮らした様子を聞きたいらしくて。だから今夜、この店に連れて来たんです」  うんうん、とラン子ママは大きく頷くと、 「私たち、ジュンヤがどうして東京に来たのかはだいたい把握していたの。あの子、最初に会ったころはちょっと斜に構えていて世界がみんな敵って顔をしていたわ」 「ラン子さんは兄ちゃんとどうやって会《お》うたんですか?」 「ママで良いわよ。この店にね、常連さんが連れてきたのよ。最初はふたりで奥のテーブルで楽しそうに飲んでいたのに、ちょっと気に入らないことを言われたのかしら? いきなりジュンヤが彼にグラスのお酒をぶちまけてね。『俺は確かにあんたに金で買われたけれど、そこまで馬鹿にされる筋合いはない』って啖呵を切ったのよ」  あのあとは暴れて大変だった、とタクミが苦笑いで呟いた。 「本当ならもう二度とこの店には入れさせないぐらいの騒ぎだったのだけれど、華奢できれいな顔の割りには気っぷの良さが気に入ってね。これからもここに飲みに来なさいって、それからの常連だったのよ」  妙に倫理観の強いところは変わっていなかったのか。航平は兄の大立ち回りが恥ずかしくて、すみませんでした、とふたりに頭を下げた。ラン子ママとタクミは笑いながら、 「ここにはひとりで来ていたわね」 「そうですね、笹木さんに出逢うまではいつもひとりだったな。あ、いらっしゃいませ」  タクミが新たに入ってきた客を迎える。仲良く入ってきたふたりの客は、カウンターの一番奥に笑い合いながら腰をかけた。

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