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第68話

(……こいつがウリ専って奴か?)  兄もこんな風に気に入った男を誘っていたのだろうか……。  そのときだった。 「リョウ、いい加減になさい。うちの店で客引きは厳禁だって言ったわよね」  電話の終わったラン子ママが厳しい口調で慌てて近寄ってくる。チッ、と小さく舌打ちをしたリョウが航平から体を離した。 「それにあなた、もうあの仕事は辞めたんでしょ?」 「まあね、だからこれは完全な俺の趣味だよ。良い男がいるとセックスしたくなるんだよ」 「趣味でお金なんか取るんじゃないわよ」  ラン子ママはかなりおかんむりのようだ。どうもこの若い男も常連のようだが、あまりこの店には似つかわしくないらしい。 「全く油断も隙もないわ。航平くん、ごめんなさいね」  なんの関係もないラン子ママに謝られて航平のほうが申し訳無くなった。 「それにね、リョウ。この子はフリーじゃないの。今夜は笹木さんが連れていらしたんだから」  リョウのニヤニヤとした笑いが急に真顔になる。一気に能面のように表情を無くしたその顔に、航平はぞくりと悪寒が走った。 「へえ、智秋がねぇ……」  カミソリの刃のような囁きに航平とともにラン子ママも小さく息を呑んだ。 (この人、笹木さんを下の名前で呼び捨てにした……)  笹木の親しい知り合いなのだろうか? 航平がリョウに事の真意を聞こうと口を開きかけたときだった。 「どうりで智秋のやつ、愉しそうにしていたわけだ。やっと自分を満足させてくれる野郎を見つけたってか」  細い眉根を寄せてリョウは吐き捨てる。そして、 「まぁ、こんなスゲェの持ってそうな奴にケツに突っ込まれてヒイヒイ言わされたら、智秋もジュンヤのことなんか忘れちまうよな」  航平がその意味を理解する前に、リョウ! とラン子ママの叱責が飛んだ。

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