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第69話

「あんた本当にいやらしいわ。この子はね、ジュンヤの弟なのよッ!」  ラン子ママが叫んだ言葉にリョウは一重の眼をこれでもかと見開いた。そして航平をまじまじとねめつけると、店中に響き渡るほどにゲラゲラと笑いだした。 「こいつがジュンヤの弟ぉ!? マジかよ、全然似てねえじゃん!」  特徴的なひきつり笑いは航平の耳には耐え難い騒音だった。薄い腹を抱えて目尻に涙を溜めながら、やっとリョウはヒイヒイと息をして爆笑をやめた。 「今世紀最大のジョークだよ、ラン子ママ」 「……ジョークなんか言わないわよ、本当に彼はジュンヤの弟なの」  真顔で答えたラン子ママにリョウはまた、航平の顔をじっと見つめる。今度は航平も眼を逸らさずにリョウを睨みつけた。やがてリョウは薄い唇の右端だけを引き上げると、くつくつと含んだ嗤いを浮かべて、 「面白いじゃないか。兄弟揃って智秋とヤッてるとはねえ」 「……そんなんじゃありません」  低く否定した航平の言葉も馬鹿にしたように、 「じゃあ、どうなんだよ? 現に智秋はこの店にお前を連れてきたじゃないか。要は『今の俺の男はこいつだ』って見せつけに来たようなもんだろ?」 「俺が笹木さん……、智秋さんに頼んだんじゃ。兄ちゃんを知っとる人に会いたいって」  また煙草を取り出して、リョウが表情を卑屈に歪めたまま銜えると、 「それなら俺に話を聴けよ。俺はお前のお兄ちゃんの仕事仲間だったんだぜ」  火を点した煙草の煙を航平に向けてリョウはわざと吹きかける。それに眼をしかめた航平に謝るどころか、さらに嘲りの笑みを浮かべた。

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