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第71話
「ジュンヤは不幸な事故で死んだのよ。最期を看取ったのが笹木さんってだけでしょう!?」
「どうだかなあ。確かにあの夜、ジュンヤははた迷惑なくらいにはしゃいでいたよ。『新しい仕事も決まったし、もうウリは辞めて智秋と一緒に住む気になった』ってね。でもさあ、酔っぱらって転んで頭をぶつけたくらいで普通死ぬか?」
「当たりどころが悪ければ死んじゃうわよ。それに警察の検屍の結果も酔って転んだ拍子に後頭部を強打して脳内に出血していたって」
「それだってさ。あのあとジュンヤと会った智秋とホテルの部屋で喧嘩になって、智秋に何かで殴られたって可能性もあるよな」
ラン子ママとリョウの激しい言い争いを航平はまるで古い映画を見るように眺めていた。早口で捲し立てられる台詞の中から唯一耳に残ったのは、純也がウリ専ボーイを辞めて笹木と暮らす意志があったということだ。
『帰って来れんのなら、笹木さんと一緒におったらよかったんじゃ』
五年前、夏の陽射しに焼けた熱くて硬い墓石を無茶苦茶に殴りながら、物言わぬ純也に怒鳴った言葉。でも、死ぬ直前まで兄は、確かに笹木とともに歩む未来を見据えていたのだ。
「ちょっとママ、リョウも。他のお客様の迷惑になるからやめてください」
バーテンダーのタクミが慌ててふたりを止めに入る。ラン子ママはプリプリと憤慨した様子だったが、それでも店内の客に愛想笑いを投げかけた。
「亡くなった人を悪く言うもんじゃないわ。リョウは確かにジュンヤとはそりがあわなかったかもしれないけれど、もう過ぎたことじゃないの……」
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