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第74話

「リョウ、本当にすまない。確かにどんな状況であれ、一時、ジュンヤを亡くした淋しさを紛らわそうしたのは本当だ。結果的に君を傷つけてしまった。それは謝る」  すまない、と頭を下げた笹木を航平は後ろから、リョウは正面から眺めた。 「……それでもやはり君の想いには応えられない。それに航平くんをジュンヤの身代わりにもしていない。君のことは……」 「もう聴きたくないッ!!」  静かだった店内にリョウの金切り声がこだまする。制止するように掴んでいたタクミの手をすり抜けて、リョウは笹木に襲いかかろうとした。 「あぶないっ」  航平は咄嗟に笹木の前へと体を出した。彼の肩を引いて背中に隠そうとしたとき、無茶苦茶に振り回されたリョウの指がガリッと航平の左の頬を引っ掻いた。 「――イタッ」 「航平くん!」  チリッと焼けるような痛みが頬に線を描く。笹木が慌てて航平の顔を両手で挟むと、傷ついた頬を確認した。その思いがけない視線の近さのほうが、笹木を庇ってリョウと対峙したときよりも激しく航平の心臓を鳴らした。 「リョウ。こら暴れるな。お前やっぱり普通じゃないぞ? 何かやってるな」  とうとうタクミがリョウを後ろから羽交い締めにする。それでもリョウは足をバタバタとさせて、人殺し、とか、ふざけんじゃねえと声を張り上げた。 「リョウ、あんたはもうこの店に出入り禁止よ。タクミ、リョウを外に出してちょうだい」  ふぅ、と息をついたラン子ママがそう告げたときだった。 「おいおい、やっぱりここに逃げ込んでいたのか」  いつの間に入ってきたのだろう。ざらざらとした感触の声色にその場に居た全員がその声のほうに顔を向けた。そこには黒いスーツから派手なシャツを覗かせた男がひとり、入り口を照らす照明の下に立っていた。

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