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第75話

「えらく威勢がいいじゃないか、リョウ」  その男の声にリョウは大きく身震いをして急に大人しくなった。 「だけどよ、こんなところで暴れちゃ皆さんのご迷惑になるだろうが。お前が喚いていいのは客の腹の上だけだよなあ」  男はニヤリと厚い唇を引き上げると、ずかずかとリョウへ近づいた。タクミに退けと無言で圧力をかけるとリョウの二の腕を掴む。途端にリョウは何かが弾けたように「イヤだッ! 離せっ」とまた暴れ始めた。 「スミマセンねえ、ママ。うちのもんがご迷惑をかけて」  離せぇ、もうイヤだぁ、と暴れまわるリョウの動きを男はいとも簡単に封じている。こんなことは慣れているのか、タクミは黙ったまま奥へと引っ込むと救急箱を取り出してカウンターの上に置いた。 「あなた、カンザキさんのところの人ね?」 「さすが、お顔が広いと噂のラン子ママだ。うちのような小さな組のことまでご存知とは。ママさんがこんな野暮なことがお嫌いなのは承知してますんで、早々にお暇しますよ」  厳つい風貌とは違い、男は慇懃無礼にママに言った。嗤いながら言う男とは対照的にリョウは青白い顔色をますます青くしてガタガタと震えている。  脂汗なのか、額から汗を大量に滴らせ始めた尋常ではない様子に、航平はリョウの事が心配になってきた。思わず「あの、」と声を発したところで、隣の笹木とラン子ママに無言で押し留められる。それでも男は航平の呟きに気がついて、 「ああ、お兄さん。その顔の傷、リョウにやられたんですね? そりゃ痛かったでしょう? せっかくのいい男が台無しだ。治療費はうちで持ちますんで、いつでも言ってくださいよ」

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