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第78話

「……彼は明日には広島に帰るんです」  代わりに答えた笹木の声色が淋しそうに聞こえるのは自分の願望だろうか。 「あら、やだわあ。もっと長く居られればいろいろと案内してあげるのに」 「ママは航平くんを連れ回して自慢したいだけでしょう? それにママが連れて行くところなんて、ディープなところばかりじゃないですか」  タクミの突っ込みに場が明るい笑い声に包まれていく。 「……でも、もしかしたら来年から東京に住めるかもしれんから」  あらあ、とラン子ママが大袈裟に手を叩いて喜ぶ。 「じゃあ、航平くんがここに住むようになったら、うちの店でアルバイトをしたら良いわ。口うるさいタクミと一緒が嫌なら銀座の店の黒服でも良いし」 「ラン子ママはここやネイルサロン、銀座の高級クラブを経営する実業家なんだよ」  そっと笹木に耳打ちされて航平は首筋がくすぐったく感じる。離れていく笹木の吐息はアルコール混じりの甘い香りがした。  顔が赤く染まるのを隠そうと航平はグラスの酒をぐいぐいと飲み干すと、プハッと息をついたついでにさっきから気になっていることを聞いてみた。 「……ところで、ママさんって本当は男なんですか?」  瞬間、静かになったあと、店中の客とタクミが大きく笑いだした。  ワタシはおネエさまよぉ、と腰をくねらせてウフンとラン子ママがウインクをする。その様子を見て愉しそうに笑っている笹木の姿を、航平は酔いが廻った瞳で見つめていた。

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