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第93話

 航平のジーンズを押し上げている硬いものが笹木の下腹に当たるのが判った。  そうだ。彼を受け入れるということは遅かれ早かれ互いの素肌をさぐりあうことになる。航平は今夜、笹木とひとつになりたいと明確に願っている……。 「……俺は今まで女とも付き合ったことがないけえ……。その、童貞なんです。なんか、すみません……」  だんだん声のトーンが落ちてくる航平が可愛く思えた。童貞であることなんて謝る必要も無いのに、なぜ、すまないなどと思うのだろうと笹木は少し可笑しくなった。  思わず、ふふと笑みを溢してしまう。胸もとで笹木に笑われた航平がますます焦ったように、 「お、俺は兄ちゃんみたいに口も巧くないし振る舞いもスマートじゃないし……。こんなとき、どうやってその……。しようって相手を誘うんかな、って……」  初めてのことに航平が戸惑っている。笹木を大きな体ですっぽりと包み込みながらも、まるで途方に暮れているようだ。  笹木は航平の胸に軽く手をつけるとゆっくりと押し出した。航平はそれに抗うこともなく、抱きしめていた腕を離して笹木の前に立ち並ぶ。恥ずかしそうに視線を這わせてきた航平に、 「純也は僕に対しては全然スマートじゃなかったよ。もっと直接的だったな。例えば、今夜はヤりたくて我慢できないから智秋とセックスしに来た、とかね」 「! セッ……!?」  酔いが廻ったのとは明らかに違う航平の頬の染まり具合に、笹木は曲げた人差し指を下唇に添えて、くすくすと笑いを堪えた。なんちゅうことを言うんじゃ、と航平は呆れたように呟いたが 「……でも、そうやって兄ちゃんが明け透けに言えるってことは、それだけ笹木さんに心を許しとったからじゃね」 「……だと、いいんだけれどね」  もう知る術もないことに笹木は目を細めた。航平は染まった顔をくっと引き締める。一度、真一文字に唇を結ぶと次に言った台詞は笹木を驚かせた。

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