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第95話
「……純也と寝るときは、そのときの彼の気分によって抱いたり抱かれたりだった。でも最後はいつもどっちがどっちかわからなくなっていたけれどね」
笹木の告白に航平は居心地が悪そうに頭を掻いた。それはそうだろう。好きな相手の過去の性体験なんて好んで聴きたくはない。それでも航平は逃げ出すことはしなかった。
「……航平くん。君は僕をどうしたいの?」
敢えて酷な質問を投げつける。案の定、航平はおろおろと視線をさ迷わせた。彼の態度を見れば何をしたいのかは分かる。先手を打って今までのように彼の気持ちを汲んでやることは容易だ。だけど今は、彼の口からはっきりとした言葉が聞きたい。
笹木が黙って返事を待っていると、航平はやがて観念したように大きく息をついて、
「俺は……。笹木さんを抱きたい……」
絞り出すように口から溢れたその望みに笹木は小さく頷いた。航平の前に歩み寄ると、頬の大きな絆創膏に手のひらを当てて視線を止めたままの航平の瞳を覗き込む。そして、
「僕も航平くんに抱かれたいよ。だから……、今からふたりでセックスをしよう」
笹木の視線を捉えていた航平がハッと息を呑み込むと、ゆっくりと頭を縦に振った。
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