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第103話※
「まだ痛い?」
熱い吐息混じりに航平が囁くのは笹木の体を気遣う台詞。その優しさに航平の熱塊で一杯になった後蕾の最奥がじわりとうねった。
「ううん、もう少しこうしていたら馴染むから……。すぐにふたりで気持ちよくなれるよ」
ふたりで、と航平は低く呟いて、さらにきつく笹木を抱きしめた。頬を猫のように笹木の頬にすり寄せると、またそのまま静かになってしまう。いや、何かを小さく囁いているようだ。耳を澄ませ、航平の途切れそうな言葉を拾うと笹木は息を詰まらせた。
「智秋さん。……智秋さん。お願い。俺の前からおらんようにならんで。ずっと俺の傍におって……。お願い……」
微かな囁き声は大きく鼓膜を揺らした。その涙を潜めた震える声に笹木は瞳を見開く。航平の湿った肩ごしに見える薄闇の中、笹木は初めてその言葉の意味を理解した。
そうだ。今まで僕は見送るばかりだった。愛しい人達は皆、僕を残して行ってしまう。僕はそれを為す統べなく見送って、ひとり残された哀しみに途方にくれるのだ。幾度も幾度も、やけに長い夜を堪えられない寂寥を抱えて枕を涙に濡らしながら。
(もう、こんなに苦しい想いはしたくない。誰か、早く僕を迎えに来てくれ――)
あんな想いは二度としたくはないはずなのに、僕は同じ想いを押しつけようとしている。愛する人の前から消えようとしている。彼のためだと嘘ぶいて、自分を殺そうとしている……。
馬鹿だ、僕は。こんなに彼が愛おしい。もうそれでいいじゃないか。この先、どんな批判や困難が降りかかろうとも、彼と離れることなど出来はしない……。
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