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第112話

「……他に純也は何か言っていた?」 「兄ちゃん、生まれ変わるんならグラマーな美女になりたいって。金持ちと結婚してセレブ生活するって言ってました」 「あはは。純也らしいな」 「それと……。笹木さんはとても寂しがり屋だから、お前が傍にいろって」  また笹木の手が止まる。そして航平の頭の上で、ふっと含んだ笑いが微かに響くと、 「そんなことを純也が……。僕には『航平はああ見えて泣き虫だから、いつも笑って過ごせるように傍にいて欲しい』って言っていたのに」  航平は驚いて笹木の顔を見上げた。笹木は優しい微笑みで、 「僕にもね、会いに来てくれたんだ。今までどんなに願っても一度も夢に現れてくれなかったのに。純也は真っ赤な彼岸花の中で、いつも見せてくれた笑顔で立っていたよ」 (同じだ。俺の見た夢と)  じわりと瞳が濡れてきて、航平はまた笹木のシャツに顔を埋めた。泣き虫だと思われたくは無いけれど、笹木は何も言わずに航平を抱きしめてくれた。  素肌の肩をなぞる笹木の手のひらが安息を与えてくれる。最後に純也に言われたことを絶対に守りたいと航平は思った。 (俺はずっと、この人の傍にいる)  力を込めた腕に応じるように笹木も航平の頭を包んでくれる。互いの呼吸を触れあう体で感じ取っていると笹木が静かに口を開いた。 「……航平くん。今日は君を連れていきたいところがあるんだ。少し遠いけれど一緒に来てもらってもいい?」  笹木と離れがたくて帰りの新幹線は昨日のうちに最終列車に変更している。航平は笹木の体にしがみついたままで頷くと、やっと抱きしめていた手を離した。

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