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第113話

***  何度か公共交通機関を乗り換えて、最後は寂れた駅前からタクシーに乗り込んだ。さらにタクシーは緑の深い山裾を目指して走っていく。ここは同じ東京なのに全く都会の雰囲気が無い。東京も郊外になると広島と変わらないなと、流れる景色を目に映しながら航平は思った。  タクシーはやがて小さな霊園の駐車場へと入っていった。笹木は運転手にここで待つように伝えると開いたドアから外に出ていった。  トランクから駅前の商店で買った小さな花束を持って、航平は先を歩く笹木の背中をついていく。この霊園の墓はどれも年季が入っていて、中にはもう訪ねてくる人もいないのか、欠けたり草が生い茂ったりと荒れ放題のものもあった。  奥深くに入り込んだところで笹木がひとつの墓の前で歩みを止めた。水の入ったバケツと柄杓を降ろすと、航平が来るのを待たずに墓の廻りを手際よく片づけていく。と言っても、この墓もあまり参る人はいないようだ。純也の墓には今でも母親が足繁く通い、航平も参る度に枯れた花や線香の燃えかすを掃除するが、この墓にはそういった物が無かった。  航平も笹木を手伝う。墓の上から柄杓に掬った水をかけるころには、航平は墓の側面に彫られたここに眠る人達の名前を目に捉えていた。  墓には四人の名前が記されている。二人は年配の男女で、もう二十年以上も前に亡くなっていた。そして残りの二人は亡くなった日が同じで若い女性と小さな子供のようだ。 (親戚の人じゃろうか?)  不思議に思っている航平の横で、笹木は持ってきた花束を二つに分けると花立てに差し込んだ。そしてその場に立ったまま、両方の手を合わせて静かに瞼を閉じた。航平も慌てて笹木の横に直立不動になると神妙に合掌をした。  しばらくして隣の笹木が小さく動くさまが空気を通して伝わってきた。航平も目を開くと笹木と同様に目の前の墓石を眺めた。

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