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第115話

「交通事故でね。赤信号を無視した車に……」 (兄ちゃんが()うとったんは、このことじゃったんか……)  愛した人が次々と自分の前から消えていくのは、どんなに悲しく寂しいものだろう。黙って立ち尽くしてしまった航平に笹木は、 「ひとりぼっちになってしまうと、もうそれからの人生なんて永すぎて苦しいものだった。脱け殻みたいに日々を過ごすのにそれでも人肌が無性に恋しくなって、なかば投げ遣りで彼らを買ったんだ。そんな中で僕は純也に会った。純也は僕とは真反対だった。きっと辛い境遇だろうに、いつもそれを明るく笑い飛ばす力に溢れていた。そして、その眩しい笑顔を惜しみ無く僕にも向けてくれた」  笹木の横顔はなぜか澄みきっていた。航平はその笑顔に吸い寄せられる。 「あの頃の僕は純也に生かされていた。だから、彼が逝ってしまうと本当に生きる意味が判らなくなった。実はね。五年前のあの日、彼の墓を一目見たら僕は純也のあとを追って死のうとしていたんだ」  笹木の告白は重い衝撃となって航平を襲った。照りつける太陽の下で真っ黒な喪服を纏っていた笹木の姿。初めて会ったときの少し頼りない、疲れたようなその風貌を思い出す。あのとき、もし自分が笹木に声をかけなければ彼は今、目の前に存在しなかったのだと思うと冷たい汗がこめかみを伝った。 「でもね。今度は君に助けられた」 「……俺に?」 「純也の弟の君にあのベンチで会えるなんて、偶然にしては出来すぎていると思ったよ。そして、ああそうか、塞いでいる僕を心配した純也が君に会わせてくれたんだと思ったんだ。初対面だったのに君は純也と同じで、正体のわからない僕に屈託なく話しかけてくれたね。純也の墓に向かって僕をひとりにしたことを純也に怒ってくれた。それがね……。それが僕は本当に嬉しかったんだ……」

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