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第120話
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三ヶ月振りに日本の地を踏んで、航平は懐かしい空気にホッとした。
左手首のお気に入りのクロノグラフで時間を確認すると、スーツの胸ポケットからスマートフォンを取り出してある場所へと電話をかける。
「平野と申しますが。ええ、いつもお世話になっております。実は今、日本に帰ってきまして、少し遅くなるのですが注文の品を取りに伺いますので……」
ガラガラと大きなスーツケースを引っ張りながら颯爽と広いロビーを歩く。その足取りがだんだんと早くなっていることに当の航平は気が付いていなかった。
***
心持ち息を弾ませてマンションのドアが開くのを待つ。先ほど鳴らしたチャイムの余韻が薄くなる中、カチャリと鍵が開けられる音がした。少し開いたドアに焦る気持ちを抑えきれず、航平はドアノブを思い切り手前に引いた。
中にいた人物はドアに引っ張られるように一歩前に出る。体勢を崩したその腕を取ると強く引き寄せた。ドアを開けるなり抱きしめられた笹木は、驚いた顔をしながらもとても嬉しそうに「おかえり、航平」と出迎えてくれた。そして、
「……ここだと外から丸見えだ。早く中に入ろう。もう夕飯もできてるよ」
にこりと笑った優しい笑顔に航平は名残惜しそうに腕を離した。
リビングへと先にいく笹木の背中を追って、航平は大きなスーツケースと途中で購入した品を持って入る。キッチンからは夕食の仕上げの途中なのか、食欲を唆るいい香りがしていた。
「明後日に帰国すると思っていたから連絡をもらって慌てたよ」
「どうしても今日、家に帰りたくて予定を繰り上げたんだ。だけどギリギリまで仕事をしていて、飛行機も急にチケットが取れたから連絡が遅れてごめん」
航平は贔屓にしている花屋に頼んで受け取ってきた大きな花束を、逸る気持ちを抑えて笹木に差し出した。
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