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第122話
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「うまいっ。やっぱり日本の味はほっとするな」
テーブルの上には鰤の照り焼きと青菜の煮浸し、蓮根とツナのごまマヨ和えに航平の大好物の肉じゃが――。
悩みに悩み抜いた献立に航平は感嘆の声を上げた。炊き込みご飯もあるよ、と言うとこの頃では滅多に見ることのなかった少年のような笑顔が溢れ出す。向かい合ってテーブルに座り、赤ワインのコルク栓を開けてグラスに注ぐと、三ヶ月振りのふたりの晩餐が始まった。
八年前、航平は約束通り、春先に笹木の元へと戻ってきた。両親を説き伏せ、東京の大学へと編入した航平は、笹木と一緒に暮らすようになってラン子ママの店でバイトをしながら大学を卒業したあと、そのまま都内の大手ゼネコンに就職した。それからは国内外を問わず、大規模建築現場の施工管理者として飛び回る日々を過ごしている。今回もアメリカでの空港建設事業が終わって帰ってきたところだ。
アメリカで過ごした日々を面白おかしく話す航平に笹木は笑顔で相槌を打つ。食事も進み、ボトルの中のワインが空になって航平の土産話も一段落ついたところで、
「今度は少し落ち着けるのかな?」
笹木の問いかけに楽しそうにしていた航平の顔が曇った。その様子にまた近々、何ヶ月も離れてしまうのかと笹木は残念になる。だが、昔から航平は建築士を目指していたのだ。今は夢を叶え、そしてさらに自身を向上しようと頑張る彼が安心して戻ってくる場所を守るのが自分の役目だと笹木は思っている。
「……もう遅くなったね。ここは片付けておくから先に風呂に入ったらいいよ。長旅で疲れているんだし、ゆっくり休んで」
航平に笑いかけ、汚れた皿をまとめてシンクへと運ぶ。シャツの袖を捲って蛇口に手を伸ばしたとき、後ろから航平の腕が廻されてきて柔らかく抱きしめられた。
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